■ ページ21
.
無意識のうちに表情の曇るAを見て、マイキーが1歩ずつゆっくりとAと距離を縮める。
「最近たばこ吸ってる?」
「……吸ってない」
「いつもは毎日吸ってるの?」
「1日1回吸うか吸わないかくらいだったはずだけど、マイキーに下僕認定されてからは吸ってない」
下僕って、といいながらそのワードに、せめてパシリっていいなよと笑っている彼は、肩にかけている特攻服の総長の文字が似合わないくらい優しい表情をしていた。
どうしてあの日から吸わなかったのかは、正直自分でも分からない。ストレスが溜まってないだけだったんだろうか。
でも、嫌でも自覚してしまっていたのは、彼といるときや話すときに不思議と何かに満足している気持ちになること。
何かが満たされている気がするのだ。
夜にメッセージが送られてくるとき、内容はくだらないことなのにふと笑ってしまうときがある。
そんなことで何かが、私の心のどこかに、砂時計の砂が落ちていくように満たされていく。
「ふーん。なんでだと思う?」
「そんなの分かるわけない。今までは足りなかったからたばこで満たそうとしてた器が、なぜか何もしなくても満たされてる気がして」
「ストレス解消って最初言ってたけど、やっぱ違うんだね」
やっぱり彼は私の心を見透かしているみたい。
最初から全部わかってたんだ。だから、私に声をかけた。
だって、あのときわざわざ私に声をかける必要はなかった。見なかったことにして無視すればよかったのに。
それをしなかったのは、きっと私がたばこを吸いながら酷い顔をしていたから。多分可哀想に思っただけだ。
「満たされないをそんなので満たしても虚しいだけでしょ」
私の髪にそっと触れながら、彼は寂しそうに笑った。
「泣かないでよ」と彼が私の目元の涙を指先で拭って、初めて自分が泣いていることに気付いた。
泣いたのなんて何年ぶりというくらいに久しぶりだった。
いつもにこにこした優等生でいなきゃって、泣くのも何かを拒否するのも許されないと思ってたから。
「もうオレ飽きたから終わりにしよっか」
「なにを?」
「この関係」
まぁ、元々彼の暇つぶしのひとつに過ぎなかった関係だ。
最初から「オレが飽きるまで」と彼は言っていた。今がきっとそのときなんだろう。
彼は私の髪を触れていた手をパッと離した。
彼の真っ黒な瞳を見つめていると、何かに呑み込まれそうになる気がした。
「分かった」
140人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「東京リベンジャーズ」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
Alice(プロフ) - きなこだいふくさん» 最後までお付き合いいただきありがとうございました…!そんな風に言っていただけて嬉しい限りです…!続編を作るかもしれないので、もし作った際はぜひよろしくお願い致します♡ (2022年4月2日 17時) (レス) id: fa28fe383f (このIDを非表示/違反報告)
きなこだいふく(プロフ) - 完結おめでとうございます。とても面白い話がたくさんあり、私自身とても楽しく読み進めることができました。こんな神作をありがとうございます!そして、更新お疲れ様でした! (2022年4月2日 11時) (レス) @page46 id: 90c5be706c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:Alice | 作成日時:2021年9月19日 20時