美しき世界-YS ページ13
LT「そういやお前。いつだかのデートどうだったの？
ほら、オイスターバー」
YS「ん・・・んーー；」
今日までの間に―
ｷｭﾋｮﾝのミニコンサートや、CMのオファー。
そして新作アルバムの制作。それに各種テレビ番組の出演なんかがあって。
何かと立て込んだ状況でもあったから、一時的に記憶から飛んでたようだが。
ﾄｩｷﾞﾋｮﾝ・・・覚えていたか。
それもそう、か。
あのときはﾄｩｷﾞﾋｮﾝに、店の情報提供をしてもらっただけでなく。
意外にも励まされたというか・・・力強く俺を送り出してくれたもんな(笑)
俺は煙草の白い煙をゆっくり吐き出しながら。
苦笑交じりに首を横に振った。
世話を焼いてくれたﾋｮﾝには申し訳ないが。
YS「ハハ・・・脈無し、だな」
頼りになる弟の―恋愛相談した際の返答、だ。
それと「男らしくない」、とも。
言われたな・・・確か。
LT「なに。なんかヘマしたの？」
YS「ん・・・。まぁそんなとこだ」
LT「一度失敗したからってなんだよ。それくらいで諦めちゃうのか？」
YS「・・・」
厳しくも有難いﾋｮﾝの言葉だが。
諦めるもなにも。ほんの少し、彼女とは馴染みがあったってだけで。
彼女を本気で好きかどうかすら。はなから疑問というか。
ああ、だけど。
懐かしくは・・・あったんだ。
少なくともあのオイスターバーで。彼女と―Aと。
酒に酔いながら、昔語りをしていた時間は。
一気に当時の瑞々しい気持ちに引き戻される―追体験のような不思議な時間で。
そんなとき。
ポツリと・・・頬に冷たいものが当たる。
LT「わっ！雨降ってきた！」
YS「・・・」
なんとなく暗い空だとは思っちゃいたが―降ってきた、か。
まだ強くはないが、雨がポツポツとこの屋上のコンクリートを濡らしていく。
LT「ｲｪｿﾝ！戻んないの？！」
YS「あ・・・先に戻っててくれ。俺はもう1本吸ったら行くから」
LT「ええっ、雨なのに？！」
ﾄｩｷﾞﾋｮﾝは俺の様子を不思議に思いながらも、濡れるのが嫌だったのか。
バタバタした足取りで事務所の中に入って行った。
俺はこの場で一人、煙草を吸うでなく―雨の音に耳を傾ける。
またしても・・・追体験か。
屋上。雨の日の。
カビくさくもあるがどこか落ち着く湿った匂い。
こんな日は歌を―歌っていたくなる。
だけど。
YS「・・・」
今の俺の口からは・・・歌らしきものはのぼらず。
それでもAは―。
あのときの俺を知っていてくれたんだ、な。
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作者名：Mercury zero
| 作者ホームページ：http://ameblo.jp/mercuryzero/
作成日時：2022年2月20日 14時
