Tonight, tonight. vol.4 (ページ2)

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Here It Is. ページ2

「はぁ、はぁ・・・！」

今は・・・9時半ピッタリか！
よし、もしかしたら～今日は買えるかもしれない。
あの行列に並んで、憧れのメロンクロワッサンに手が届くかもしれない―！

スーツに、ローヒールの靴で。
コートの裾をバタバタとたなびかせながらも、歩道を小走りで進む。

今日イチの仕事は、オフィスで顧客との打ち合わせ。
だけどその開始時刻が11時とやや遅めであったから、その前に。
オフィスとは目と鼻の先―今や大人気のヤコブベーカリーの行列を、私は目指していた。

いつも遠巻きに眺めることはあっても。
なかなか並ぶことのできなかった、もはや名物みたいになっているあの行列。

オープンの時間には、普段はもう仕事中だからちょっと無理。
それにメロンクロワッサンはあっという間に売り切れるってことだから。
お昼休憩に買いに行くとかでも無理。

だけど、今日みたいにいつもより遅い出勤日なら―！
そんな期待のもと、足を速める。
だってやっぱり一度くらいは食べてみたい。

うちの課長におねだりもしたけど、それもいつになるやらだし。
今日こそは、メロンクロワッサンのあの行列に並ぶと決めたわけで。

つい勢い込んで、列の最後尾に辿り着く。
乱れた息を整わせながら、やっぱり体力が落ちたなぁと痛感する。
月イチのボクササイズくらいじゃあね・・・体を鍛えてるうちに入らないか。

そんなこと思いながら、呼吸が落ち着くころには。
この行列も少しずつだけど前に動いていて。
私は正面の、やや猫背気味の男の人についていくように歩みを進めていると。

ププーー・・・ゥゥン！

「・・・！」

背後で車のホーンが鳴って、反射的に後ろを振り返る。

音が長く伸びているから、少し距離が離れてそうだけど。
交通事故・・・ではなさそうだった。
また荒っぽい人が運転してたのかもね。

何事もなかったようだし、またくるりと列の先頭に体の向きを戻す。
と―

KH「びっくりしたぁ・・・」

私のすぐ前の男の人が。
よほど驚いたのか～まだ呆然と音がした方を見つめていて。
だけどその呆然とした目線が―ふわりとこちらに下りてきた。

思いがけず目が合っちゃって。
フツーこういうとき、知らない人同士なら。
なんとなーく居心地が悪くなって、そそくさと目を逸らしたりするけど。

KH「あっ」

知らない人同士ではなく、目も逸らされず。
一応でも知った顔だと、先に思い出してくれたのは―
なんと彼のほうだった。