Tonight, tonight.

トリガーを引け-KH ページ16

YS「〜〜♪〜〜♪」


あるとき突然、スイッチが入ったみたいに。
ﾋｮﾝってそんなに仕事熱心な人でしたっけ？と聞きたくなるくらいに。
堂々と。惜しげも無く―その歌声を披露しているｲｪｿﾝﾋｮﾝ。


まだ客の入ってない会場だけど。
ホテルの従業員やスタッフたちが、突然のﾋｮﾝの変わり身に息を呑む気配がする。
だけどそれはまぁ当然のことで。


この人がちょっとマジになって、その歌声を発揮すれば―
こうなるって決まってるんだ。
僕でさえうらやましいと思うことがある・・・どこか憂いを含んだ、大人の男の声。


ちなみにﾋｮﾝが歌ってるのは、僕らSJを代表する楽曲の〜
それのアンサーソングのほうね。
それは今日の本番で歌う楽曲に違いない、けど。


でも今みたいに押し迫った状況下では。
せいぜい「アー」とか「ラー」とかの声を馴らす程度のものでいいはずなのに。
今日に限っては、あのｲｪｿﾝﾋｮﾝが珍しく積極的な姿勢を見せている。


マイクも僕らの前に置かれたものよりも、ショボそうに見えるやつだってのに。
何も知らない観客たちは、そんなもの言われないときっと気付かないな。


だけど、こうして我らが「芸声」の歌声を届けられるのは。
あるスタッフのおかげともいえて。


＊


「Aｵﾝﾆっ！お願いします、早く〜〜＞＜」


ほんの数分前―


多分僕より年かさそうな。
仕事もデキそうな女の人がこのステージに駆け込んできた。
T-シャツに、くるぶし丈のボトム姿の。僕らと違って身軽そうな格好だ。


その女の人は、慣れた手つきで。
使いものにならないほうのマイクをスタンドから取り外すと。
代替品と思しきマイクを同じ場所に取りつけていた。


やれやれ・・・忙しいでしょうに、面倒なことになってすみませんね。
・・・うちのｲｪｿﾝﾋｮﾝの変な力のせいで(笑)


誰とも知らない人だけど。
僕は胸の内で、兄貴の代わりに詫びを入れておくと―


YS「んーー？どれ」

「・・・」

YS「・・・オゲンキデスカ。楽しんでマスカ」

「ぶっ・・・(笑)」

YS「―このとおり」

「は〜〜っ・・・良かった！・・・です」


ｲｪｿﾝﾋｮﾝとそんなやり取りをしたのち。
その人は、あっという間にこの場を離れて行ってしまったのだった。


だから、これだけじゃ。
この段階じゃ―頭の切れる僕もわからなかった。


この二人が顔見知りで。
マイクだけじゃなく、ｲｪｿﾝﾋｮﾝのやる気スイッチが入ったのも―
実は彼女のおかげだった、ってね。

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