BE THERE vol.6

今夜一人のベッドで ページ40

ホテルの一室―
ビジネスタイプにありがちなユニットバスじゃない。
十分な広さと、アメニティなんかも充実しているバスルームで。
生乾きみたいなことになってる服を脱ぐ。


トップスもボトムも。下着までもが。
泳いだわけでもないのに、あの場所の海水で濡れてしまっていた。
わずかに砂も入り込んでいる。


でも洋服はまだマシな方。
さっきまで履いていたスニーカー靴は水びたしもいいとこで、どうしようもなかった。
いくら夏といえど明日までに絶対乾くわけなんてないから・・・新しいの買わないと。


裸の自分の全身を―洗面台の鏡に映す。
胸元や、お腹のあたり。
そこにポツポツと赤いあざみたいなのが浮かび上がっていて。


今度は自分の脚の後ろを振り返ってみると。
ふくらはぎや、くるぶしにも同じようなものができていた。
それを指先でなぞると―


「ふふ・・・」


思わず一人、笑いがこぼれた。


なんだか、こんなものまで。
懐かしい・・・ね？


あの海は、工業地帯に面している海だから。
近くの工場の工業用水が流れてきてるってことだった。
―もうずっと昔、から。


だから、あの海に触れるときはいつだって。
例えばタツヤがサーフィンをしていた間・・・波打ち際でちょっと足をつけただけでも。
私の肌・・・こうなってた。
もともと海水浴場でもない、あまりきれいとはいえない海だったから。


「・・・」


鏡に映った―今にもまた泣き出してしまいそうな自分と目が合って。
浴室に飛び込む。


すっかりざんばらになってた髪に、汗や潮の匂いがまとわりついてるような気がして。
それもシャワーの水で洗い流した。


いつの間にか失くなっていた―私のお気に入りの。
貝殻色のビジューがついた、夏らしいヘアクリップは。


きっとあの場所に・・・沈んでいったの。


＊


シャワーを浴び終えると。
ここの備えつけの簡易バスローブを身にまとって。
ふかふかしたベッドにごろんと横向きになる。


ｼﾞｮﾝｳﾝさんは・・・もう寝た？
さっきの別れ際の私の質問の答え・・・今でもすごく知りたいけど。
彼は―雲みたいに掴みどころのない人だものね。


横になりながら―きゅっと自分自身に触れる。


「・・・っ」


ダメ・・・ダメ、A。
こんな風にあの人のことを想ってしまっては。


今日1日だけで計り知れないほど感じた―
あの人の男らしい優しさ。


その優しさにただひたすら感謝しながら。
今夜は一人で眠らなきゃ・・・。


そうでしょう？

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