BE THERE vol.6

I Cry.2 ページ28

波は穏やかで。
潮風はどこまでも優しくて。
この砂の感触だって以前となんにも変わった気すらしなくって。


だけど。


私とｼﾞｮﾝｳﾝさんの二人だけしかいない・・・この静かな海で。
波遊びをしている人も、サーファーの姿だって一人も見えないこの海で。


私の体の奥底で長い間、眠っていた―激しいものが。
ドロドロとして、醜いものが。
血の流れに乗って、せり上がってくるみたいに・・・沸き起こる。


ｼﾞｮﾝｳﾝさん・・・私ね。
ホントに・・・愛してたんです。
この場所を。


あなたもこうやって、傍にいてくれるのに。
「あの日」から・・・前を向かなきゃって思うのに。
でも・・・でも。


「・・・っ！！」

YS「・・・」

「・・・っ！はぁ、はぁ。・・・っ！！」


ぎゅっと手の中に握りしめた砂を。
愛しいと思っていた場所に、ありったけの力を込めてぶつける。


掴んでも掴んでも、全て私の手からこぼれ落ちそうな細かい粒を。
空回りでもいい。腕がもげたっていい。
今は憎くて憎くてたまらないこの場所に・・・ぶつける。


だって・・・ここが。
この場所の、この海が―なにもかも奪っていったの。


家も、家族も。
この人さえいてくれれば何も要らないって・・・心からそう思っていた愛する人も。


今はどれだけ穏やかな顔をしていたって―
「あの日」凄まじい牙を剥いたあの海が。


私の大事なものを。
なんもかんも・・・奪っていったのよ。


怒りと憎しみに突き動かされるままに、波に向かって駆け出す―。


スニーカーとか。
自分の体とか洋服が濡れるのもかまわず。
膝より高い位置にくるまで、ざぶざぶと身をそこにひたして。


私は両腕を振り上げて・・・海の表面を打ち付けた。


「〜〜〜っ！！・・・ああああっっ！！」


こんな声が出るんだって、自分でも驚くくらいの。
雄叫びにも似た―全身が震えるような声がとどろく。


目から熱いものがほとばしるように溢れて。
口の中がひどく渇いて・・・しょっぱかった。


涙なんて・・・とうに。
涸れ果てるくらいまで流してきたと思ってた。


怒りなんて・・・誰に対しても、何に対しても。
持つべきじゃないって。
ずっとそう―抑えてきた。


だけど。


お願い、お願いよ・・・。
太陽・・・まだ沈まないで。
まだ輝いていて。


私のこんな醜い思いを、その強い陽で。
どうか干上がらせて―。


もう暮れかけた夕陽を浴びて。
私はかつて愛していた海の中で。


ただそれだけを願っていた。

グレーの雲が流れたら-YS→←Orange...-YS

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