BE THERE vol.6

Sepia way.2 ページ25

私がこの地で愛した―海は。
その愛が深くなったのは―タツヤという人に出会ってからではあるけど。
そんな彼もこよなく愛していた海は。
たくさんの工場が並ぶ、工業地帯を抜けた先にあった。


再び車に乗っていた私たちは、今まさに海に向かっていて。
目の先には、工場から出る煙のようなものが見えていた。


YS「ん・・・？キリン・・・」

「ふふ。知ってますか？日本の有名なビールメーカーです＾＾」


ｼﾞｮﾝｳﾝさんのちょっとした発見の声に。
運転しながら返事をする。


広大な敷地と、大きな建物の―ビール工場。
津波が起こったあとは・・・そこの工場から。
商品として出荷されるはずの大量のビールが、近くに漂流したってことだった。


そして、皮肉にもそれは。
難を逃れて生き延びた人たちの―貴重な水分物資になったとも。


そんなビール工場もあの事態のあとは。
当然ながらに、しばらくその機能を停止していたようだけど。
そこから月日の経った今はもう―どうやら稼働を再開していたようだった。


ここ・・・タツヤと海に行くたびに。
それこそ数えきれないくらいに、こうやって通り過ぎて。
工場見学やビールの試飲で、一般に開放してるところだから〜一度は行ってみたいねって。
そのたびにタツヤと話してて。


でも、いつもいつも。


―それじゃ、運転手の俺は飲めねーだろ！帰りどーすんだ＾＾


って。
二人で残念そうな顔しながら・・・笑ってたね？


結局、彼と一度も行くことの無かったビール工場を抜けて。
道と道路標識は。
海までの行き先を示したものになる―。


この道も。
たくさんの海上コンテナが幾個も積み上げられた、コンテナターミナルも。
その風景が見えてきたら・・・目的地は。すぐそこ。


「・・・」

YS「・・・」


もうすっかり距離が近いものになった、水平線。


砂利のせいで、車体をがたがたさせながらもそこに車を停めて。
ここまで根気強く付き合ってくれているｼﾞｮﾝｳﾝさんに。
「着いた」と告げることもなく、車を降りる。


そのはしから―潮の匂い。
さざ波の音も耳に届いてくる。
今日は風もなく穏やかに打ち寄せている白い波。


ｼﾞｮﾝｳﾝさん・・・この海ね。
あなたと二人で行ったことのある―いつかの韓国の海に。
少しだけ・・・似ている気がしませんか？


そんな問いかけを、ｼﾞｮﾝｳﾝさん本人にしてみたかったけど。
なんだかそれは馬鹿げたことな気がしたから―
黙ってた。

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