BE THERE vol.6

いつか愛した道で ページ18

ハンドルを握る手も。
そして、道を選ぶ判断も。


自分の意識とは別のところが―全部、勝手にやってくれてるみたいに。
迷うこともなく突き進む。


変ね？
自分でこうやって車を運転すること、あまりしてこなかった気がするのに。
でもどんなに忘れたくても―頭のどこかにこびりついてしまってるかのように。
勝手に・・・思い出されてくるの。


この道・・・昔よく通ったな。
私が大学生だったとき。
大学の講義を、自分たちの中で自主休校にして。
海に繰り出すとき。


お仕事がお休みの日のタツヤが、わざわざ大学まで迎えに来てくれて。
私やマオを連れて―この道を走って。
海まで行ったの。


車の窓を全開にして。
いかにも夏、って感じの音楽を大音量で流して。
それよりももっと大きい声でそれを歌って。
私も・・・歌った。


無邪気で、幸せで。
夏がただ好きで仕方なかった―今はもう遠い日。


こんなことを思い出したくもないのに、思い出してしまうのは。
今ここがあまりにも静かだからって。
私は信じたかった。


「・・・」

YS「・・・」


隣にいてくれるｼﾞｮﾝｳﾝさんは、ぼんやりと。
流れる窓からの景色に目をやっていて。
CDも何も持ってきていないこの車は・・・ただ静かで。


こういうときこそ、いつだかのドライブみたいに。
ｼﾞｮﾝｳﾝさんの・・・鼻歌の出番なのにね。
思案に耽っているのか、それとも何も考えていないのか―
今の彼はそうしてくれなかった。


そんなだから。


「このへんの道路。よく整備されているでしょう？」

YS「ん？そう・・・だな」

「でも・・・海からだいぶ離れたここにも。波が・・・来たんです」

YS「・・・？」

「津波です―」


まるで、他人事みたいに。
これも私の意志とは無関係のところから、勝手に口に出るみたいに。
「あの日」のことを語っていた。


ｼﾞｮﾝｳﾝさんに、こんなこと言うべきじゃないって。
知られるべきじゃないって。
ホントは・・・そう思ってる。


そして、こうすることで。
何かが変わるの？私の何が変わるの？って―
あなたにこの日本行きを持ちかけられたときと同じ思いだって、未だにある。


だけどもう―私も、あなたも。
自分の意志でここに来てしまった以上。
どうか覚えておいて。


日本に・・・こういう場所があるってこと。
あなただけは、どうか忘れないでいて。


ここでは、私ももう。


逃げ出したりなんか、できないから―。

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