BE THERE

雨上がり-YS ページ5

「私と別れてください、ｲｪｿﾝｵｯﾊﾟ」

YS「ん・・・」

「ｵｯﾊﾟ、私のことなんか好きじゃなかったんですよね？」

YS「ん・・・」


平日午前の、とあるカフェ。
俺の目の前にはコーヒーのグラスと。
むっすりとした顔の―俺の恋人、と周囲からは認識されている女。


だけど、彼女ってこんなに低い声でも。
可愛げの無いツラでもなかった気がするんだけどな。
もしかして今までの彼女は、俺の幻想か何かだったのだろうか。


だけど、そんなことを思っていたのは俺だけではなかったようで。


「ｲｪｿﾝｵｯﾊﾟって。歌ってるときと全然イメージ違うんですね」


彼女もまた。
自分の中で作り上げていた、「俺」がいたようだ。


YS「んーー。そうか？」

「はぁ・・・もうヤだ。この人、何考えてるかわかんない・・・」


あ・・・なんか。
別れ話そのものよりも。
そっちの言葉のが・・・地味に傷つく、な(笑)


恋人というからには。
一応それらしく連絡を取り合ったり。
一応こうやって顔を合わせたり。
一応・・・大人の男女がするようなことも。してきたんだが。


今の彼女の目に映った俺は―
何を考えてるかわからない謎の男のようだ。


だから。


YS「今まで我慢させて―悪かったな？」

「・・・！」

YS「俺のこと。悪者にしてくれてかまわない」


そうなるのは、俺が彼女を大事にしてやれなかった自業自得によるもので。
むしろ―有難いくらいだ。
俺がずっと言い出せなかったことを。
彼女が代弁してくれたんだから。


だから、その言葉になんの疑問も。
ましてや彼女を責める気なんてのも毛頭ない。


「ｵｯﾊﾟなんか嫌いよ！」


そう言って彼女はバン！っとテーブルを打ち付けて。
勢いよく立ち上がったかと思ったら、火山のように憤慨してカフェを出て行った。


やれやれ。
最後の最後に―怒らせちまった、な。


＊


彼女が去った席でアイスコーヒーをゆったりと飲み終えて。
会計を済ませて、一人外に出る。


YS「お・・・止んでる」


カフェの軒下から、空を見上げると。
ついさっきまで降っていたはずの雨は止んでいて、晴れ間さえ差し込んでいた。
俺は傘立てに置いていた自分の傘に手を伸ばして―それを取るのをやめた。


傘なんて―なんとなく今は邪魔、だな。
あんな話のあとだってのに、妙に身軽な気分なんだ。
俺はジーンズのポケットに両手を突っ込んで―


YS「よっ、と」


陽の光を浴びてキラキラと反射した水たまりを、大股で飛び越えた。

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