BE THERE

無意識の欲求 ページ27

歌ってるときの・・・「ｷﾑ・ｼﾞｮﾝｳﾝ」さん。
子どもみたいに「痛い」とか「怖い」とか言っていた―
病院で会った印象とは全然違う。


顔つきも。
纏っている空気も。
別人みたい・・・。


まるで―晴れていたかと思えば、突如としてやってくる真っ黒い雲のような。
夏の日の・・・夕立みたいな人・・・。


「・・・」


なぜだかわからないけど―息が止まるような思いで。
テレビの中の人たちを、凝視してしまう。


ここの部分って、きっとこの歌の見せ場のところ・・・だよね？
だって彼。
歌・・・ものすごく上手。
そういうの全く詳しくない私にだって、それくらいわかる。


彼のソロパートからサビに差し掛かって、パッパッと画面が切り替わっても。
SJとやらがみんなかっこいい人たちだってのもわかったけど。
その曲が終わるまで・・・気付けば目はあの人を追っていて。


次のアーティストが映し出されて、ハッと我に返るころには。
やけどするくらい熱かったチゲは・・・程よい温度になっていたのだった。


＊


「ふぅ・・・」


なんだか、夢を見ていたような気分で食堂をあとにする。
あの番組を見てしまったあとは。
せっかくの料理も、味なんて楽しめなかった。


私・・・アイドルの人とあんな風に話すのなんて初めて。
ううん、アイドルだって前もってエラ主任から聞かされていたはずなのに。
あの人・・・全然、そんな感じじゃなくって。


きっと。
きっともう・・・会うことなんてないだろうけど。
あの歌声がさっきから、耳にこびりついて離れない。


さすがにもう暗くなった、ｿｳﾙの市街を。
夢見心地のままゆったりと歩く。


行き交う人たちの喧騒をすり抜けると。
その間から、わずかに洩れてきた音を―私のその耳が拾った。


思わずぴたっと立ち止まってしまった、CDショップの前。
そこの店頭で、さっきテレビで聞いたばかりの歌が流れていた。
あ・・・新曲って言ってたっけか。


「・・・」


最近の流行の音楽とか、アイドルのCDとか。
そういうの・・・あんまり興味ない。
私はCDショップに背を向けて、また歩き出した。


だけど。


「・・・うぅ〜〜・・・；」


私のそんな意志が介入できない―無意識みたいな世界からの。
「もっとあの声を聞いてみたい」って思いが。
私の足をくるりと、同じ場所に仕向けて。


店頭に積まれていた、SJのCDを手に取って。
それをレジまで持って行く勇気までくれたのだった。

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