BE THERE

こんな子いるかな？ ページ19

アイドルっていうわりには。
キラキラしたオーラがあるわけでもなく。
その代わりにどこか不思議な雰囲気と哀愁感の漂う―男の人。


そういえば、グループの中でも地味な子だって。
エラ主任が言ってたっけ。


さっき、暗がりでこの人がうなだれてるのを見たとき。
ものすごーく不謹慎なのだけど・・・
まるで身内に不幸があった人のように見えてしまった。
不幸って・・・ここ、口腔外科(笑)


そんなこと考えていたら、彼が横からジッと見ていることに気付く。
あ、いけない。
ちょっと笑いそうになってしまったの、顔に出てないよね？


この人・・・確かにパっと目を引くような顔ではないけど。
目―このシャープな瞳だけは。
とても、印象的。


だけど私たちの目線が合わさっていた時間はごくわずかで。
「ｷﾑ・ｼﾞｮﾝｳﾝ」さんは、すぐにまたツラそうに顔をしかめて。
頭をゆっくりと振っていた。


「歯が痛い」って、唸るように低い声で何度もつぶやく彼は。
アイドルどころか、困らせたがりの小さい子みたい。


YS「痛い・・・怖い・・・」


それにしても・・・ホントに困った人。
今から治療したら、痛いのも治るっていうのに。
聞いてれば、さっきから泣き言ばっかり。


「あーーもうっ！ダメですよ、そんなんじゃ！」


ちょっとこのどんよりとしたような空気と。
彼の情けない態度にイラついてしまって。


思わず私は立ち上がって―彼がここのVIP患者だということも。
自分より年上だってことも忘れて。
怒り口調になってしまった。


「男の人がそんなでどうするんですかっ」

YS「ん・・・んーー」

「いいですか？あなたにこれから、子どもができたとして―」

YS「こ、子ども？？」

「ええ。例えば―そうね、男の子。息子さんだとしましょうか」

YS「ん・・・息子」


呆気に取られたような表情で私を見上げていた「ｷﾑ・ｼﾞｮﾝｳﾝ」さんは。
私の言葉に、想像力を働かせるかのようにふわ〜っと視線を泳がせた。


「その息子さんが、虫歯で歯が痛くって」

YS「んーー」

「歯も痛い、でも病院も治療も怖いから嫌だって言ったら―
あなた父親として、その子になんて言いますか」

YS「そう、だな」


ボソっと、そう言って。
真剣な様子で、考え込む「ｷﾑ・ｼﾞｮﾝｳﾝ」さん。
だけどその時間はごくわずかな間で―


YS「怖くても。痛いのがずっと続くよりいいだろ、とか？」


彼のその言葉を聞いた私は、立ちながら何度も頷いた。

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