BE THERE

STRANGER ページ16

プリントアウトしたカルテを、クリップボードにとじて。
それを胸に抱えて口腔外科まで向かう。


口腔外科は、他の診療科とは少し離れた奥まったところにあって。
その救急患者さん、迷ってないといいけど・・・。


そんなことを思いながら歩みを進める。
もうすぐそこが口腔外科だってのに、その一角に明かりすらついてないように見える。


「おかしいな・・・」


ポツリとつぶやいて、廊下の角を曲がると―


「っ！！」


思わず息を呑んでしまった。
び、びっくりした・・・びっくりしたーー。


口腔外科の―非常灯しか灯されていない、真っ暗に近い診察室の前に。
その闇に紛れるかのようにして。
ジッと椅子に座っている・・・男の人。


広げた両膝の上に手を組むようにして。
ツライのかわからないけど、そこに頭を載せてうなだれている。


私はためらいながらも―この一角の廊下の明かりのスイッチを押した。
パチン、という澄んだ音が。
夜の静かな病院にやけに大きく響いた。


YS「・・・？」

「あ・・・ｷﾑ・・・ｼﾞｮﾝｳﾝさん、ですか？」


ゆっくりとこうべを持ち上げて。
急に明るくなったのが煩わしかったのか、その人は。
片目を思いきり細めて―私が佇んでいる方にその目を向けた。


YS「はい・・・ｷﾑ・ｼﾞｮﾝｳﾝです」

「ドクターもナースも・・・まだ来てないですか」

YS「・・・ん」


そりゃ・・・そうだよね。
こんな真っ暗なところで、この人をこうさせてるくらいだもの。
ソン先生はまだこっちに向かってるころかもしれないけど〜
ナースたちもみんな手が離せないのかな。


それにしてもこの人が―ｷﾑ・ｼﾞｮﾝｳﾝさん、か。
Super Juniorとやらの。


そのグループのことなんて全く知らなかったけど。
アイドルで、うちのVIP患者だなんて前もって聞いてしまったもんだから。
ついつい、ぼんやりとした様子で座っているこの人を見てしまった。


な、なんていうか。
ごくフツー・・・の男の人、な気がするんだけど(笑)
言っちゃなんだけど・・・ﾐｮﾝﾄﾞﾝの街中なんかをフツーに歩いていそうな。


アイドルって、もっといかにもなオーラみたいなものがありそうなものだけど。
歯が痛むのか、険しい表情で片手をそこに持っていってる―
どこか情けなさそうに見えるこの人が。


国民的アイドルグループの一人だなんて。
にわかには信じられなくて。


私はもうキンチョーすることもなく。
彼の隣に腰を下ろしたのだった。

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