BE THERE

優遇患者 ページ13

「あなたって。どこか壁があるわよね」


きっぱりとそう言い放つエラ主任の言葉を。
私は拾ったのか拾ってないのか・・・といったように。
書類を片付けるフリをしながら聞き流した。


「私のこともいつまでも主任って呼ぶし」

「・・・」

「他のみんなと同様に『エラｵﾝﾆ』って呼んでいいわよって言ってるのに」

「ふふ。尊敬してる方を―そんな風に呼べませんよ＾＾」

「もう、わかってない！呼んでいいってのはね、こっちがそう呼んで欲しいって意味なんだからね？！」

「は、はぁ・・・」


この国の文化では―そう呼ぶことが、確かに目上の人を敬う文化だってことが。
ここで暮らしているうちに私も理解することはできた。


ﾋｮﾝとか、ﾇﾅとか。
ｵﾝﾆとか、ｵｯﾊﾟとか。
そう呼び合うこの国の人たちの人柄が愛おしくもあり―


だけど私には。
まだなかなかそうすることはできなかった。


照れくさいのと―
あとは、あまりに人と近い距離になってしまいそうで。
それが。エラ主任の言うところの「壁」なのかもしれない。


なんとなく・・・話題を変えたいなって思って。
どんな話をエラ主任に振ろうか考えていたとき。


ﾋﾟﾘﾘﾘﾘｯ！


「どうやら。急患みたいね・・・」


エラ主任が首から下げている内線用のピッチが鳴って。
主任はスッと顔つきを冷静なものにして―それに応じた。


ごく簡潔に、業務的な受け答えをした主任が電話を切って。


「A、一人来るみたいよ。親知らずの・・・治療で、ね」

「はっ？！親知らず・・・？そのために。救急で。今からですか？！」


こういうときの急患って・・・大抵はもっと重篤な場合が多いから。
思わず、素っ頓狂な声で。
何度も念を押すように聞いてしまった。


「そっ。ったく、大げさな話よね〜」

「ていうか。口腔外科のドクターなんて、今いないんじゃ・・・」


もちろんこういう救急対応のために、何人かのドクターはいるけど。
そのほとんどは、内科か外科のドクターのはず。


「ソン先生。来てくれるみたいよ。口腔外科のおじいちゃん先生」

「ええっ？！わざわざっ？！」

「仕方ないのよ。その人ね、いわば―うちの病院のVIP患者みたいなもんだから」

「VIP・・・？」

「とりあえず、電子カルテのプリントアウトしてくれる？ソン先生、PC扱えない人だから」

「あ、はい」

「名前は―ｷﾑ・ｼﾞｮﾝｳﾝ」


この時間に来て、そんな融通が利く患者さん。
一体・・・どんな人なんだろう。

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