BE THERE

春と夏のあいだで ページ2

「A、もう上がっていいわよ。お疲れさま」

「はい。それじゃお先に上がらせてもらいます＾＾」


デスク周りに散らばった文房具をさっと定位置に戻して。
来患用の、番号を発券する機械の日付を今日のものにする。


この時点で、この場所の。
今日1日の―新しいスタート。


だけど私は、今日はひと仕事終えて帰るところだ。
時間は朝の8時ちょっと前。
多分もうすでに入口には受付待ちの人たちが何人かは来てるだろうな。


入れ替わりで出勤してきたエラ主任に、簡単に業務の引継ぎをして。
私はタイムカードを切った。


「今日もまた患者さんいっぱいなのかしら・・・やだわ〜」

「暑くなってきてますし、そろそろ熱中症の人なんかも増えだす頃ですもんね」

「あーーお願いだから！今日は昨日より少ない人数でありますよーに！」

「ええ、ホントに。じゃあ、エラ主任。あと宜しくお願いしますね＾＾」


エラ主任と挨拶を交わして。
私は病院の、受付カウンターをすり抜けたのだった。


＊


着替えるために、従業員用のロッカールームまで向かう。
そこまで行くのに、オープンスペースにもなっている病院の中庭を突っ切るのが日課なんだけど―


あ・・・しまった。


「雨かぁ・・・」


小雨ではあるけれど。
この雨、昨夜からずっと降っていたのかな。
でも、それも当たり前といえば当たり前の話で。


7月あたまの韓国は―
初夏といえど、梅雨の真っ只中だものね。


日本であれば、それももう抜ける時期だけど。
あっちは夏・・・。来てるかな。


私は中庭に出る入口のところで、空を見上げた。
ひさしからパラパラと落ちてくる水滴がきらっと光ったように見えて。


「あ、でも。すぐ止みそうだね」


遠くに見える空が―わずかに明るい。
分厚いように見える雲間から。
ひとすじの光るものが差し込んでいた。


手にしていたファイルを頭の上に掲げて。
私は中庭の石畳を駆け出した。


半袖の制服。
腕のところに雨のしずくが落ちてきたけど―
なんかそれも、気持ちいい。


そう思えるのもきっと、この季節の恩恵かもね。


だけど、この国でも―韓国でも。
まぶしくて焼けるような太陽に出会えるのは。
もう間もなく。


だから。
さっきのエラ主任じゃないけども・・・。


怪我をする人が。
病気で苦しむ人が。
そしてそれを見て悲しむ人が。
昨日よりも多くありませんように。


誰もが今日を楽しく平穏に―過ごせますように。

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