34:『を』 ページ8
目が覚めると部屋の温かさにまた眠りそうになった。見れば暖房が付いている。自分で付けた記憶は無いから、兄が付けたのだろう。でも家の中に兄の気配は無かった。
「やっぱり会いたく無いのかな…なんて」
兄は今日休暇だと聞いたから、若しかしたら会えるかもしれないと思っていた。でも其れは無理そうで。
机の上には綺麗に整えられた書類が置いてあった。1番上のを手に取ると、『中原』とサインがある。でも其れは私の筆記じゃない。明らかに兄の字。でも1番驚いたのは其の隣に朝御飯が置いてあった事だった。
『残すなよ、朝飯くらいちゃんと食え』
前に私が好きだと云うと、毎日のように作ってくれたフレンチトースト。
小さな紙の切れ端に、残された兄のメッセージ。
ラップを取ってフォークを手にすると、其の儘口に運んだ。噛むと広がったのは懐かしい味だった。
「あったかい……」
そんな言葉と一緒に溢れてきたのは喜びじゃなくて困惑だった。
「何で……??何でなの…兄さん」
何時もは冷たいくせに。
目すら合わせてくれないくせに。
この間なんか殺そうとまでしてきたくせに。
「サンタさんの贈り物ですか?」
たった1日限りの幸せなのかもしれない。
其れでも良い。其れだけで良い。
今までに比べたら全然幸せだから。
でもね本当はね、兄さん。
⎯⎯⎯⎯貴方と一緒に朝御飯が食べたかった。
✯✯✯
走って、走って、兎に角走る。
今頃彼奴は起きて驚いている所だろうか、なんて時計を見る。ストップウォッチを止めて近くの公園のベンチに腰掛けると、汗が吹き出てきた。
流石にクリスマスの早朝に走っている奴は居ない。其の儘ベンチに寝転ぶと冷たい風が汗を冷やしていった。
「何やってンだ……俺は」
太宰の云う通りなのかもしれない。ちゃんと話し合えば良いなんて事ぐらい分かっている。
でも其れが出来ない。
きっとまた怖がらせてしまうから。
今まで冷たく返してきたのに、いきなり元に戻ったら彼奴は戸惑うだろう。だって彼奴は優しい。でも其の優しさが何時か彼奴を殺すかもしれないと考えると怖くなる。
あの下級構成員の時もそうだった。
「弱ェ兄貴でごめんな、A」
抱き締めてやりたい。
馬鹿な事で笑いあって
くだらない事で喧嘩して
次の日にはお互い忘れてまた笑っている。
⎯⎯⎯⎯もし、そんな日がまたやってくるのならば。
目から涙が零れ落ちて、思わず唇を噛み締めた。
小さな嗚咽が人気の無い公園に響いていた。
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夏菜子(プロフ) - 更新楽しみにしてます!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! (10月30日 21時) (レス) @page27 id: 7ba2b47e72 (このIDを非表示/違反報告)
ニコ星(プロフ) - キャアアア!!!おめでとうございます🌸立原!よくやったな!!(笑) (9月21日 21時) (レス) @page4 id: a35decf8bd (このIDを非表示/違反報告)
萩野千紗 別垢 - 凄いです!!文才ありまくりです!!その文才を下され((結論・この作品大好きです!!更新楽しみにしています!! (9月19日 21時) (レス) @page2 id: 5c4afa8e2f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Mei | 作成日時:2023年9月18日 10時