33:『せ』 ページ7
暫く走り続けて人気の無い公園までやってきた。息切れが凄くて近くのベンチに腰掛けている立原君の頬に、自販機で買ってきたココアを押し付けた。
「うぉ!!」
「はい、大丈夫?少し走り過ぎたね」
「ぜ、全然……大丈夫…で、す……」
隣に腰掛けて缶を開けると、暖かい湯気が頬を擦る。1口啜ると優しい甘さが口に広がった。
「Aさんは凄いですね」
「え…?どうして??」
「いや……何か憧れますよ、ほんとに」
「そうかな…まぁ、ありがとう」
私なんかに憧れる要素などあるのだろうか。
私自信にはよく分からない。
「あ……立原君」
「何すか?」
早くなる鼓動を抑えて、私は云った。
「ありがとう」
目を見開いて何か云おうとする立原君に続けて云う。
「久しぶりに楽しかった。こんなにはしゃいだのは何年ぶりだろう…って感じなの。最近立て込んでたから」
一瞬だけ自分が『普通の子』になれた気がした。
本当に、本当に一瞬だけ。
「俺も……」
目を細めて立原君は笑う。
「貴方と過ごせて幸せです」
嗚呼、罰が当たりそうだと思った。
幸せ過ぎて怖くなる。
でも、少しくらい欲張ったって良いかもしれない。
立原君、私ね
⎯⎯⎯⎯貴方に出会えて良かった
✯✯✯
降り出した雪が溶けて、跡形もなく消えていく。
マフィアにこんな純白の白雪は似合わねェな、と悪態付いて乾いた笑いが出る。明日は休暇だ。ゆっくり出来るのも今のうちかもしれない。
家に帰ると、珍しく彼奴の靴が綺麗に揃えられていた。俺のよりも幾分か小さい其の靴の隣に同じように揃える。
リビングの明かりが付いていた。扉に手を掛ける前に何を云おうか考える。『ただいま?』『久しぶり?』なんて、そんなものは関係ない。
ゆっくりと扉を開けると目を見開いて、しゃがみ込んだ。
「何だ……寝てンのか…」
ソファに腰掛けたまま、寝息を立てて眠っていた。近くには書類が重なっていて、仕事中に寝落ちたのだろうと察しがつく。久しぶりに話をしようと決めていたが無理なようだ。
運んで起こしてしまうのは嫌で、ブランケットを羽織らせた。其のまま頭を撫でようと手を伸ばす。
『……手前みたいな奴は早く辞めろ』
「ッ!!な…」
紛れも無い、自分が彼奴に云った事。
違う、そんな事ある訳ねェだろ。
ただ、俺は…
⎯⎯⎯⎯×××××××××××
たった其れだけ
其れが俺の望むもの。
叶うのならば俺は嫌われたって良い。
「ごめんな、A」
其の儘小さな背中は奥に消えた。
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夏菜子(プロフ) - 更新楽しみにしてます!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! (10月30日 21時) (レス) @page27 id: 7ba2b47e72 (このIDを非表示/違反報告)
ニコ星(プロフ) - キャアアア!!!おめでとうございます🌸立原!よくやったな!!(笑) (9月21日 21時) (レス) @page4 id: a35decf8bd (このIDを非表示/違反報告)
萩野千紗 別垢 - 凄いです!!文才ありまくりです!!その文才を下され((結論・この作品大好きです!!更新楽しみにしています!! (9月19日 21時) (レス) @page2 id: 5c4afa8e2f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Mei | 作成日時:2023年9月18日 10時