61:『事』 ページ34
人間誰しも気が緩む所はある。
好きな物を前にした時や、緊迫した状況の中で不意に安心が訪れた時、其れから酔った時。
特にこの酔った時、と云うのは兄さんの場合1番酷いのである。もう、自我を忘れたように狂うのだから隣に座る者としては面倒くさい以外の言葉が無い。
そう、『関わったら面倒くさい兄さんTOP3』を付けるなら
「おれはよぉ…ずっとしんばいで……」
「……もう無理かも」
第1位は酔った兄さんなのである。
✯✯
寝息を立てて眠る兄を異能でソファまで運ぶ。其の最中も、目を開けないホド熟睡していた。
きっと、お気に入りのワインを1本も飲んだからなのだろう。1杯目から顔は真っ赤で既に出来上がっていたから。
「ちょっと片付けるか……」
適当に食器を食洗機に入れて、ワインはワインセラーにしまっていく。相変わらずワインセラーには私の知らない間にまた増えていた。。
「……A」
不意に呼ばれて振り返ると、ぼんやり目を開けた兄と目が合った。立ち上がって、傍に寄る。
「何ですか?ほら、眠いならベットで寝てください」
「ん……」
眠いのか殆ど目閉じかけながら兄は手を伸ばし、私の手を掴む。其れから、恋人のように手と手を繋ぎ合わせた。
「幹部??」
「生きてる……」
は?と素っ頓狂な声が出た。それでも兄は何も云わずにただ、握り締める力を強くする。
「幹部……」
「ごめん、A」
と、兄の身体が起き上がり私の方に倒れかかってきた。
「え、ちょ、ちょっと!!うわ!!」
頭を打ち付けた痛みに悶えながら、右に転がる兄を見る。横で同じように潰れる兄は
泣いていた。
「怖ェんだよ、手前が居なくなる夢ばかり見やがる。俺は夢なんて見ねぇのに」
「幹部……」
「ちゃんと云えねェし…無理だ、俺は不器用だからな」
そっと兄の目をなぞると、ぎりぎりまで貼っていた膜が壊れた。溢れだしたらもう止まらない儘で、雫が落ちる。
兄が泣いているのを見たのは初めてだった。
「あん時…俺が拾ってなきゃ、良かったか……?。」
「……其れは違う」
「ごめ、A。俺が『妹だ』なんて嘘ついたから…」
「
ごめん、ごめんと繰り返す兄を見ていられなくて、また異能でソファに移して自分は外に出る。
風が冷たい。
「はぁ……云えないなぁ、これは」
病気だなんて
もう死ぬだなんて
「云えないな……」
流れる涙が止まらなかった。
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夏菜子(プロフ) - 更新楽しみにしてます!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! (10月30日 21時) (レス) @page27 id: 7ba2b47e72 (このIDを非表示/違反報告)
ニコ星(プロフ) - キャアアア!!!おめでとうございます🌸立原!よくやったな!!(笑) (9月21日 21時) (レス) @page4 id: a35decf8bd (このIDを非表示/違反報告)
萩野千紗 別垢 - 凄いです!!文才ありまくりです!!その文才を下され((結論・この作品大好きです!!更新楽しみにしています!! (9月19日 21時) (レス) @page2 id: 5c4afa8e2f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Mei | 作成日時:2023年9月18日 10時