60:『た』 ページ33
上機嫌でカートを押す兄に着いていく。ワインが並ぶコーナーで、もう30分は見回っている。そろそろ飽きてきた。
「お、探してたやつ」
「もう既に5本買っているでしょう。流石に駄目です」
「お前も飲みたいだろ?」
「まだ19ですから」
「……別に良いだろ。飲んでたじゃねェか」
確かにそうだけれども。
「他は?欲しいもンあるか?」
「別に何も……」
「じゃあ会計してくる。待っとけ」
レジに並んだ兄とは反対方向に歩く。店を出ると、鏡花が居た。目が合うと、駆け寄ってくる。
「Aさん!!」
「鏡花、あけましておめでとう」
抱きつく鏡花を受け止める。何時見ても、幸せそうに微笑む鏡花は可愛らしい。
「新年の買い出し?」
「そう。お雑煮作る」
「良いね。そう云えばずっと鏡花の料理食べてない。作ったら食べたいな」
「本当?じゃあ……明日マフィアに持っていく」
「え、良いの??」
だって鏡花はもうマフィアを抜けた。
大丈夫なのだろうか。
そんな心中を察したのか、鏡花は云った。
「別に平気。Aさんに食べて貰えるなら何だってする」
胸を張る鏡花の頭を撫でると、私も云った。
「じゃあ伝えておくよ。楽しみにしているね」
「うん……!!」
と、鏡花ちゃ⎯⎯⎯⎯ん!!と声がして見ると敦が走って来ていた。両手に荷物を抱えている。
「Aさんは誰と来たの??」
「私?私は……」
何も云わなかった。ただ、微笑みかけた。
鏡花は其れだけで分かったようだった。
「良かった。仲直り出来た??」
「分からない。でも、前よりは大丈夫」
「なら良い。何かあったらまた教えて」
「ありがとう」
今度鏡花と会えるのは何時だろう。
まだ鏡花には云えていない。もうすぐ死ぬ事を。
「またね、鏡花」
「うん。また」
別れてから、少し歩いてから思い出した。身体の向きを変えて鏡花に尋ねる。
「Aさん??」
「治は……」
「え??」
「治は…大丈夫?」
探偵社員に会ったら聞こうと思っていた。だって治は嘘をつくのが上手いから。電話やメールじゃ分からない。
「あの人は…」
「太宰さんなら今日も元気ですよ」
敦は代わりに云う。其の瞳は真っ直ぐで嘘をついているようには見えなかった。
「そう…良かった」
「今日も元気に川に飛び込んで…」
「…やっぱり」
ありがとう、と云って今度こそ別れる。兄はもう待っていた。
「鏡花か?」
「うん。明日お雑煮持って来てくれるって」
「姐さん喜ぶな」
「そうだね」
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夏菜子(プロフ) - 更新楽しみにしてます!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! (10月30日 21時) (レス) @page27 id: 7ba2b47e72 (このIDを非表示/違反報告)
ニコ星(プロフ) - キャアアア!!!おめでとうございます🌸立原!よくやったな!!(笑) (9月21日 21時) (レス) @page4 id: a35decf8bd (このIDを非表示/違反報告)
萩野千紗 別垢 - 凄いです!!文才ありまくりです!!その文才を下され((結論・この作品大好きです!!更新楽しみにしています!! (9月19日 21時) (レス) @page2 id: 5c4afa8e2f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Mei | 作成日時:2023年9月18日 10時