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55:『恋』 ページ28

目を覚ますと、月の光が窓から差し込んでいた。傍らに誰かが居るような気がして見ると、太宰さんだった。

優しく右手が握られている。小さく動かすと、彼は目を開けた。

そっと身体を起こす。

「………A?」

「治…ごめ、」

言いきらないうちに抱き締められた。彼の一定の心臓の音が伝わる。目を閉じて其の音に聞き入っていた。

「この…馬鹿!!何で…何で……無理するのさ」

「…無理したつもりは無い。本当だよ」

そう云うと、治は黙ってしまった。

幾時間かが過ぎて、弱々しい声が降り落ちる。

「焦ったんだよ。森さんから連絡が来てさ」

「うん」

「『Aちゃんの意識が無い』って云われて、珍しく仕事していたのに放り投げて、此処まで走って来た」

「うん」

「国木田君には怒鳴られるし、車には轢かれかけるし、マフィアに着いても中に入れさせて貰えないし」

「うん」

「本当に……怖かった」

「………治」

「Aまで居なくなったら私はどうすれば良いのさ」

「…大丈夫よ、治」

「ッ……そっ…か」

身体を離すと、治の目元を拭った。人が来る気配がしてお互いに無意識に身体を遠ざける。

「起きたかい、Aちゃん」

「…申し訳ございません、首領」

目配せすると、治は部屋から出て行った。首領に何かを呟きながら。私には其れは聞こえなかったけれど。

暗い部屋に取り残される。

「首領」

「何だい?」

「中原幹部はこの事を知っておられますか」

治があんなになっていたのだから、兄も気が付くだろう。

「…知っているよ。ただ、過労による体調不良と説明してある。……太宰君以外の皆にはね」

「ッ!!そう、ですか」

取り敢えず良かった。余命の事を兄に気付かれてはいけないから。だって、どんな顔をされるか分からない。

「Aちゃん、本当に良いのかい」

「……何がですか?」

「いや、何でも無いよ。そうだね、ただの独り言だ。そろそろ次の来客が居るから失礼するよ」

頭を傾げて居ると、勢いよく扉が開いた。

「Aさん!!」

「ッ立原君!!」

泣きそうな顔の立原君が入って来た。

56:『は』→←54:『の』



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設定タグ:太宰治 , 中原中也 , 立原道造   
作品ジャンル:恋愛
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夏菜子(プロフ) - 更新楽しみにしてます!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! (10月30日 21時) (レス) @page27 id: 7ba2b47e72 (このIDを非表示/違反報告)
ニコ星(プロフ) - キャアアア!!!おめでとうございます🌸立原!よくやったな!!(笑) (9月21日 21時) (レス) @page4 id: a35decf8bd (このIDを非表示/違反報告)
萩野千紗 別垢 - 凄いです!!文才ありまくりです!!その文才を下され((結論・この作品大好きです!!更新楽しみにしています!! (9月19日 21時) (レス) @page2 id: 5c4afa8e2f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:Mei | 作成日時:2023年9月18日 10時

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