53:『こ』 ページ26
顔を抑えて泣き続ける太宰を、呆然と見る事しか出来なかった。騒ぎを聞きつけたのか、芥川が隣に並ぶ。其の顔は固まっていて、何も読み取れなかった。
「太宰…手前、一回落ち着け」
「落ち着ける訳無いでしょ!!馬鹿なの!?嗚呼、そうか……Aがどんな状況か知らないからそんな事が云えるのだね」
「太宰さ…」
「あの子がどれだけ気を張っているのか、君は知らないから!!」
「ンな事ねェよ!!!!」
つい反射になって云い返す。すると、太宰はピタリと止まった。虚ろな目で俺を見つめた。
「じゃあ知ってる??Aが立原君と付き合っている事」
「は……??」
初耳だった。隣の芥川を見ると、小さく頷いていた。
「ねぇ、どっち??」
「知ら……なかった、」
「じゃあ昨日までAは何をしていた??」
「ッ…任務じゃねぇのかよ」
「違う。体調を崩して休んでいた」
ヒュッと喉で音がした。
何も答えられなかった。
いや、何も知らなかった。
それくらい俺は、Aを見ていなかった。
「じゃあ最後の質問」
太宰は冷たい声で云う。
「Aが今一番苦しんでいる事は??」
これだけは直ぐに分かった。
其れはきっと俺自身。
「………」
でも云えなかった。認めたく無かったからなのかもしれない。
「中也」
「ッ………」
「だから警告したじゃないか」
「うるせぇ!!!黙れ!!裏切った手前に何が分かる!!確かに『あの日』から囚われたままだ。情けねェ話だがな」
何で一人で行かせてしまったのだろう。
何で自分の体調を優先したのだろう。
守ると決めたのに。
傷付けないと決めたのに。
「Aッ……」
戻って来たAは口を開くと云った。
⎯⎯⎯⎯ごめんなさい、と。
迷惑を掛けてごめんなさい、と。
上手くやれなくてごめんなさい、と。
「違ェ、そんな事ねェよ」
そう云って抱き締めてやれば良かったんだ。
でも其の時の俺は云った。
「才能がねェなら辞めろよ。迷惑だ」
そして伸ばされたAの手を振り払った。
Aが片目を失ったと云う事実が受け入れられなくて。
つい考えずに怒鳴り散らした。
其の時に見えたAの顔は覚えていない。
俺は直ぐに背中を向けて去ってしまったから。
158人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
夏菜子(プロフ) - 更新楽しみにしてます!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! (10月30日 21時) (レス) @page27 id: 7ba2b47e72 (このIDを非表示/違反報告)
ニコ星(プロフ) - キャアアア!!!おめでとうございます🌸立原!よくやったな!!(笑) (9月21日 21時) (レス) @page4 id: a35decf8bd (このIDを非表示/違反報告)
萩野千紗 別垢 - 凄いです!!文才ありまくりです!!その文才を下され((結論・この作品大好きです!!更新楽しみにしています!! (9月19日 21時) (レス) @page2 id: 5c4afa8e2f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:Mei | 作成日時:2023年9月18日 10時