49：『な』 ページ22
｢……これは不味い｣
気が付けばとっくに日は落ちていて、月の光が窓から差し込んでいた。泣いて寝てしまったのか、と眉を顰める。
｢A｣
呼んでも彼女は起きない。
死んだように眠っている。
｢大丈夫。まだAは生きているから｣
そう云い聞かせる。
そっとAの頬に触れると熱を帯びていた。
｢変わってあげられなくてごめんね、A｣
傷付く君の代わりになれない。
出来るのはただ隣に居るだけ。
痛みも苦しみも取ってあげられない。
｢ん……太宰…さん｣
｢少し眠れたかい、他に痛い所は?｣
｢身体が重い。だけど大丈……｣
⎯⎯⎯⎯大丈夫。
そう云いかけたAの口を押さえると、太宰は微笑んだ。
｢大丈夫じゃないだろう?私の前だけでも素直になりなさい｣
｢うん…｣
其の上でもう一度聞き直すと、頭が痛いと教えてくれた。
Aは我慢してしまう癖があるから。
Aの大丈夫は信用してはいけない。
｢確かに熱があるね。これからもっと上がるかもよ｣
｢其れ……｣
｢ん?どうしたんだい｣
｢気持ち良い…冷たくて｣
そう云うAの視線には、私の手があった。熱を計ろうとした時、添えたままになっていたようだ。
｢そうか……それじゃあ当ててあげよう｣
｢太宰さん｣
｢どうした、A｣
｢呼んでみただけ｣
悪戯っぽくAは笑う。
大分無理をしているような笑いだった。
｢……A｣
｢何?太宰さん｣
｢呼んでみただけだよ｣
きょとんとしたAが思わず吹き出した。
何だかおかしくなって、顔を見合わせて笑う。
其の時ふと思ってしまった。
このままでいたいと。
Aの傍についていたいと。
だから私は尋ねた。
｢ねぇ、A。聞いても良いかい｣
｢良いけど…何?｣
瞳を此方に向けるAに、一瞬躊躇ったが其の儘続けた。
｢立原君と付き合っていると森さんから聞いたのだけど…本当かい??｣
違う、と云って欲しい。
森さんや私の勘違いであって欲しい。
でも、違った。
目を見開いたAは、目尻を下げて小さく微笑む。
｢……うん｣
｢…そっか。おめでとうA｣
ありがとう、と笑ったAは美しかった。
でも、胸が痛くて。
其の笑顔が心に沁み渡って。
嗚呼『おめでとう』が棒読みになってしまったかもしれないな、なんて。
分かっていたけどやっぱり認められなくて。
何時の間にか涙が溢れだしていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 158人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
夏菜子(プロフ) - 更新楽しみにしてます！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！ (10月30日 21時) (
レス) @page27 id: 7ba2b47e72 (このIDを非表示/違反報告)
ニコ星(プロフ) - キャアアア！！！おめでとうございます🌸立原！よくやったな！！（笑） (9月21日 21時) (レス) @page4 id: a35decf8bd (このIDを非表示/違反報告)
萩野千紗 別垢 - 凄いです！！文才ありまくりです！！その文才を下され((結論・この作品大好きです！！更新楽しみにしています！！ (9月19日 21時) (レス) @page2 id: 5c4afa8e2f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：Mei | 作成日時：2023年9月18日 10時
