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45:『に』 ページ18

「ありがとう、立原君。君はもう戻っても良いよ」

「ッ……失礼します」

Aさんを部屋に送り届け暫く傍に居ると首領が入って来た。本望ならもっと一緒に居てあげたかったが、俺にも仕事がある。

「軽かった……」

殆ど重さが無かった。比喩でも無く、天使を背負っているみたいな感覚だった。俺と同じくらい背丈もあるのに、今にも消えてしまいそうな人だった。

いや、其れは今始まった事じゃない。


潜入任務としてマフィアに入って暫く経つ。

一目惚れだった。

初めての任務でやらかして殺されそうになった時

Aさんに援護に来て貰った。

苦戦の表情など一切見せず、淡々と殺していく彼女が

恐ろしくて、美しく見えた。


其れから直ぐに俺はAさんと対面した。

初めて向かい合って思った。

「この人はマフィアに似合わない」と。

俺を見つめる瞳が優しかった。

微笑むと昼下がりの太陽のように温かかった。

其れと同時に

酷く『寂しそう』だった。

其の理由は後で知った。中也さんから容赦なく責められているAさんを目撃して、芥川の兄さんから聞いた。

泣きそうな目をしていた。

でも泣けなかったのだと思う。

Aさんは首領の傍らに居る実力者。

マフィアのトップ層に位置すると云っても良い。

届かない存在だと思ってた。

だから嬉しかったンだ。

あの日、Aさんは笑っていた。

俺なんかの事を『好き』だと云ってくれた。

一瞬、自分が黒社会に居る事を忘れていた。

其れくらい幸せだった。

だから、Aさんが零した

「もう直ぐ死ぬ」と云う告白が酷く痛かった。

其れも寂しそうな顔で笑いながら云うものだから

俺なんかじゃ似合わない事を思った。

「まだ云わねェけどな」

強くなろう。

守るとまではいかなくても、Aさんの隣に立てるくらいになれるまで。

取り敢えずは任務だ。

黒蜥蜴の作戦室のドアノブに手を掛ける。

「悪ぃ!!!遅くなった!!」

「立原!!遅いですよ、確認始めますからね!」

「今日の報告書は貴様だ、立原」

「え、嫌です。今日は姐さんの日でしょ」

「五月蝿い立原」

「理不尽!!!!」

部屋に笑い声が響き渡る。其の時にふと思うのだ。

此処にAさんが居たらどうなるのだろう、と。

同じように笑うだろうか。

それとも小さく微笑むのだろうか。

俺には分からなかった。

46:『な』→←44:『う』



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設定タグ:太宰治 , 中原中也 , 立原道造   
作品ジャンル:恋愛
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夏菜子(プロフ) - 更新楽しみにしてます!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! (10月30日 21時) (レス) @page27 id: 7ba2b47e72 (このIDを非表示/違反報告)
ニコ星(プロフ) - キャアアア!!!おめでとうございます🌸立原!よくやったな!!(笑) (9月21日 21時) (レス) @page4 id: a35decf8bd (このIDを非表示/違反報告)
萩野千紗 別垢 - 凄いです!!文才ありまくりです!!その文才を下され((結論・この作品大好きです!!更新楽しみにしています!! (9月19日 21時) (レス) @page2 id: 5c4afa8e2f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:Mei | 作成日時:2023年9月18日 10時

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