38:『て』 ページ12
「手伝い…?」
皿を置いて俺は聞く。
だが、そう聞いてしまった事は間違いだった。
さっとAの顔から色が消えていく。
「ぁ…忙しければ良いのですが、其の…。上手く調べきれない部分があって……」
駄目だ、早く答えてやれ。簡単な事だろ『分かった』とただ云うだけで良いのだから。
でも、其の一言は喉にこびり付いて離れないでいた。
云わなきゃいけないのに。
云ってあげたいのに。
Aの顔が悲しみに染まる前に。
「や、やっぱり…」
「分かった」
きょとんとした顔でAが俺を見つめる。ありがとうございます、と頭を下げると書類を取りに部屋に戻って行ってしまった。
其の背中は酷く小さく見えた。
✯✯✯
「其れで此処の数値はおかしいと思うのですが…」
「確かにな。マフィアへの売上は減ってるくせに、軍事費は上がってやがる。これは企んでるな」
「はい。其れに此方の企業も同じようで……変化時期も此方とほぼ同じなんです」
「マジか……手を組んでやがるな、この2社」
「上に報告が必要ですね」
「マフィアの中枢企業だからな。なるべく手は離したくねェが。仕方ねェもんだ」
机に書類を広げて話し合う。
この時だけは俺もAも気を遣う事なく話せる。
其れはマフィアに属する身として。
『兄』と『妹』なんて云う関係では無い。
「……幹部。大丈夫ですか」
ほら、其の証拠にAは俺を『幹部』と呼ぶだろ?
でも俺は其の事に何も云わない。
いや、云えないのだ。
前に俺が其の関係を否定したから。
今更修復なんて出来る訳が無い。
「疲れて居るところすみません…」
「いや、大丈夫だ。気にすんな」
「ッ……はい」
納得していないAの顔を見て、俺は話を逸らす。そうするとAも話を切り替える。
話し合って報告書を作成し終わると既に次の日だった。
Aはもう寝る、と云うので自分も寝る事にした。久しぶりに早く寝る事が出来る。また明日からは休みは殆ど取れないだろう。
「お疲れ様」
「はい。ありがとうございました」
そう云ってAは笑う。
酷く、寂しそうな笑顔だった。
でも、其の儘部屋に戻るAを呼び止められずに、俺は立ち尽くす事しか出来なかった。
『自業自得だよ、全部自分のせいなんだ』
『見ただろう?Aはどんな顔でお前を見ていた?』
『傷付けて…結局守れてないじゃない』
……そうだよな。
俺に呼び止める権利なんて無いのに。
「…ごめん」
⎯⎯⎯ごめん、A。
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夏菜子(プロフ) - 更新楽しみにしてます!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! (10月30日 21時) (レス) @page27 id: 7ba2b47e72 (このIDを非表示/違反報告)
ニコ星(プロフ) - キャアアア!!!おめでとうございます🌸立原!よくやったな!!(笑) (9月21日 21時) (レス) @page4 id: a35decf8bd (このIDを非表示/違反報告)
萩野千紗 別垢 - 凄いです!!文才ありまくりです!!その文才を下され((結論・この作品大好きです!!更新楽しみにしています!! (9月19日 21時) (レス) @page2 id: 5c4afa8e2f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Mei | 作成日時:2023年9月18日 10時