Episode88 ページ3
「うわ、ちょっと、」
さて、二人はどうなったものか、と呑気な気持ちで山本が教室の扉を開けると、突然こうちゃんが鞄を持って横から飛び出していった。
どうしたの、なんて声をかける余裕もなく走って行ってしまったので、唖然としながらその先を見つめることしか出来ない。
もしかして、告白でもして失敗してしまったのだろうか。一縷の不安を胸に山本が佐々木の方を見つめると、彼女も彼女で驚いた顔をしていた。
「…何か、あった？」
「ううん、こうちゃんが突然帰るって言って…」
「えぇ…」
机の上には、片付いていないままの彼のノートと筆箱が置かれていた。彼を突発的に帰らせてしまうほどの何かがあったのだろうか。身内の不幸などではないといいが、どちらにせよ、好きな人の前で何をやっているんだと思わず山本はため息をこぼした。
「私たちもそろそろお開きにしますか…？」
「…そうだね、こうちゃん帰っちゃったし。忘れ物は一応僕が持って帰っとくね、明日本人に返すよ」
「ありがとう、」
なんだか煮えきらぬ雰囲気のまま、今日はお開きとなった。山本からしてみれば、こうちゃんがいないのにこれ以上わざわざ佐々木と二人でいてもなぁというのが本当のところだったのだが。
「確か、佐々木さんも方面同じだったよね」
「あ、でも今日本屋さんに寄ってから帰ろうと思ってて…」
「そっか、じゃあここで」
「今日はありがとう、またあしたね」
駅に向かう途中の交差点で、佐々木と別れる。
そのまま駅のホームへと向かうと、なんとそこには待ち合いの椅子に座るこうちゃんがいた。
どうしたんだ、早く帰らなければいけない用事が出来たのではなかったか。驚きと同時に、特に用がないなら何か一言くらい声をかけて帰るべきだろうと軽くムッとした気持ちになる。
「こうちゃん！」
「ぅわ、山本さん」
少し大きめの声で名前を呼べば、彼はびくっと全身を硬化させて驚いた顔でこちらを見つめた。
「…なんですか」
「なんですかって、こっちのセリフだよ！急に何にも言わずに帰っちゃうし…はい、これ忘れ物」
「…ありがとうございます」
こうちゃんは少し不服そうな顔で山本から忘れ物を受け取ると、黙ってそのまま下を向いた。
「どうしたの、何かあったの？」
ここまであからさまにテンションの低い様子を見せられたら、そのまま帰る訳にもいかない。
山本は丁度やってきた電車を見送ると、そのまま彼の横に腰を下ろした。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 424人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「QuizKnock」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
あたま - 初コメ失礼します。1から一気に読んでしまいました！続きがめっちゃ気になります！ (2021年10月12日 5時) (
レス) id: be4260c156 (このIDを非表示/違反報告)
Syuri(プロフ) - 里野こちさん» コメントありがとうございます！嬉しいです！了解です！ (2021年2月5日 12時) (レス) id: 05aa016733 (このIDを非表示/違反報告)
里野こち - 初コメ失礼します。いつも楽しく読ませてもらってます！新しい登場人物なのですが、ymgmさんとhysさんがいいです！できればでいいのでどうかよろしくお願いします！ (2021年2月3日 18時) (レス) id: aa6e439f65 (このIDを非表示/違反報告)
Syuri(プロフ) - なつめさん» ありがとうございます…！！最近、たまってたなつめさんの小説を一気読みしました！至福でした……笑笑 (2020年11月11日 0時) (レス) id: 05aa016733 (このIDを非表示/違反報告)
Syuri(プロフ) - ピカイアさん» ありがとうございます…！手術の先輩(こんなこと言っていいのか…？笑)のお言葉、きちんと受け取らせて頂きます…。体調、自分で感じてるのが100%じゃないですもんね…！ (2020年11月11日 0時) (レス) id: 05aa016733 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：Syuri | 作成日時：2020年7月30日 23時
