Episode74 ページ39
「だから、伊沢さんの立派な家をみたときに、なんか住んでる世界が違うなあって少し思っちゃったんです」
そんな深く悩んでる訳じゃないんで、あまり気にしないでくださいねと念を押す山本に、須貝は何と後を継げば良いか分からずああ、とだけ返した。
裕福、だとか貧しい、だとか、そんなことで山本の価値を判断するやつなんてここにはいない。そんなことは、山本もきっと分かっているのだろう。
だからこそ、思いがけずそうした壁を突きつけられると自覚という形によってじわじわと心の中をどうしようもない絶望感が侵食してくる。
ああ、彼にかけるべき言葉の正解は何なのだろうか。
同情?いいやちがう。励まし?なんておこがましい。
少しの間布団の中で目を泳がせた挙句、須貝は真っ直ぐに天井を見つめる山本の方を向いて、その丸い頭にポンと手のひらを乗せた。
「…え。どうしました須貝さん」
「ん、いや、なんとなく」
「ええ…」
そのままヨスヨスと頭を撫で始めた須貝に、いよいよ山本は小っ恥ずかしくなりその身をよじって須貝と向き合う形に向きを変えた。
「ちょっと、須貝さ…」
「俺は、」
遮るような須貝の言葉に、出かけてた言葉を引っこめる。思わず少し大きめの声を出してしまった須貝は少し声のボリュームを下げてその先を続けた。
「俺は、山本祥彰っていう人が好きだから。他のみんなも同じ。周りの装飾物を全部取り払ったって、山本も伊沢ももちろん他のみんなも、全員大切に思ってるよ」
それだけ、と言って、最後に強く山本の頭をガシガシっと撫でて反対側を向いた。真実とはいえ、自分の言葉に恥ずかしくなって顔を隠したかったのだ。
さすがに引かれたか、と少しドキドキした面持ちで反応を待っていると、少しした後でありがとうございます、と優しげな山本の声が返ってきた。
「…あんまり、こういう話って人に出来たことがなくて。不幸自慢みたいで、感じ悪いかなってずっと思ってたんで、須貝さんに聞いてもらえて、そう言って貰えて、心が軽くなった気がします」
大袈裟ですかね、可笑しそうに笑う山本に、おうよ、と顔を見せないまま応える。
模範解答、かは分からないが、少なくとも今の俺に出来る精一杯の回答だ。
「こうちゃんも、寝たフリバレバレなんだから、早く寝なさいね」
「……はい」
山本の返事に満足した須貝は、そのまま目を閉じて緩やかな眠気に身を委ねた。
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Syuri(プロフ) - なつめさん» コメントにありがとうございます!やっぱり可能性コンビは可愛いですよね…私もいつもなつめさんの小説読んでによによしてます笑 これからもぜひ呼んでください! (2020年6月4日 19時) (レス) id: 090c01e7bb (このIDを非表示/違反報告)
なつめ(プロフ) - コメント失礼します。いつも楽しく読ませて頂いています。山本くんお誕生日…いやあ、最高でした!ラストそうきたかあー。先輩方のドタバタと、かわいい後輩くん達のやり取りが面白くって、いっぱい笑わせて頂きました。これからも楽しみにしてます! (2020年6月4日 11時) (レス) id: 6fb7510317 (このIDを非表示/違反報告)
Syuri(プロフ) - 怜さん» 嬉しい!ありがとうございます!本気で生徒会室に冷蔵庫あるんですか!!笑 個人的に無理矢理な設定だったかな〜なんて思ったりもしていたので、ちょっと安心です笑 しかも公立高校なのにすごいですね!!コメントありがとうございました…!! (2020年6月2日 7時) (レス) id: 090c01e7bb (このIDを非表示/違反報告)
怜(プロフ) - いつも楽しく読ませてもらってます!山本さんお誕生日回…!たくさん更新されてて1人テンション上がってしまいました笑 以外余談。私ごく普通の公立高校生ですが何故か生徒会室に冷蔵庫あります…謎の親近感を覚えて楽しかったです!笑 (2020年6月2日 3時) (レス) id: 291ffdfed4 (このIDを非表示/違反報告)
Syuri(プロフ) - (名前)豆腐さん» 本当ですかありがとうございます!!最近更新時刻がバラバラになりがちになってしまっているんですけど、そう言って頂けるともっと更新頑張ろうって思えます!これからもよろしくお願いします…!! (2020年5月19日 16時) (レス) id: 090c01e7bb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Syuri | 作成日時:2020年5月14日 0時