第四十七訓 ページ48
no side
歪む視界でかぶき町の街を無我夢中で走った。自分が自分で無くなってしまいそうな程溢れる、喪失感。
痛い 苦しい 助けて─。
立ち止まったら泣きくづれてしまいそうで、怖かった。
走って、走って、とにかく走った。
慣れない下駄の前坪が食い込んで痛くても、人とぶつかりそうになっても止まらない。止まってはダメだと自分に言い聞かせた。
「───っ」
ツンっと下駄が小石に躓く。
一瞬感じた浮遊感は痛みに変わった。
「ぅっ…いっ……」
体が強く地面に打ち付け、息が止まる。受け身を取らなかった体が軋む様な痛みが走り、衝撃で転がった下駄、足袋には血が滲んでいた。
綺麗に着飾った着物は着崩れ、泥で汚れ髪も乱れてボサボサ。
行き交う人の波がAを横目に通り過ぎる。
──「私達もうすぐ結婚するの」
両手を地面をついて起き上がれば生暖かい水分が頬を伝い地面に落ちた。ポタポタ…と重力に逆らえず地面に濃いい染みを作る。
「うぅ……ぅ…っ」
もう涙が止められない。
「うっ…ぅぁ…っ…」
苦しい。なんでこんなに苦しいの?
鍋から吹きこぼれるように溢れる涙と嗚咽。人の視線が全身に突き刺さる。足が痛くて移動する事もできない自分。
惨めで 情けなくて 滑稽で。
──ザッ
誰かが自分の目の前で立ち止まった気配を感じた瞬間、視界が揺れた。強制に引き上げられた体。
「ッ…!?」
予想外の人物にみるみる目が大きく開かれる。なんで、と頭の中で呟いた。
「そ…ッ ご…?」
臙脂色と紫の瞳がぶつかり合う。
そこには淡々とした無表情を貫いた沖田が、Aを見下ろしていた。無言で見つめる沖田の目線はゆっくり動き出す。地面に転がる下駄、足袋の血、着物の土汚れを確認するように動き終えると、ぱっと腕を解放し
沖田「Aさん」
自分に視線を合わせて屈んだ沖田は口を開く。
沖田「…動くんじゃねェーぞ」
一言、告げた。
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迷い猫(プロフ) - なみさん» お返事遅れてももも、申し訳ないです!!!なみ様読んでくださってありがとうございます。いやいや、最高だなんて…逆に読みづらくないですか!?大丈夫ですかね?ガクブル またお暇な時でも読んでやってください(土下座)コメントありがとございました!! (2022年6月6日 18時) (レス) id: b045a615ae (このIDを非表示/違反報告)
なみ(プロフ) - この小説の表現好き〜♥️♥️甘いスチュの時、乙女心のある表現があるとこっちまでキュンキュンしちゃいます!!(*´▽`)めちゃ好みの合う小説見つけたぞー!最高っす作者さん!!ありがとう!! (2022年5月29日 9時) (レス) @page31 id: 617d92d894 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:迷い猫 | 作成日時:2021年11月28日 20時