10.虹色 ページ11
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私を見透かしてつけたのかと思いきや、名前から取ったものらしい。エルはフランス語で羽や翼という意味だと、しばらく経ってから教えてくれた。
私自身、そのあだ名を気に入っている。だから“エル”と呼ばれるのは嫌ではないが、グルッペンの中ではもっと別の意味があるんじゃないかと思っている。
ある雨の日。いつもと変わらない灰色の世界の中、静かに階段を降りていた。
目の前で仲良さそうに腕を組んで降りていくカップルが、何かで満たされたのが溢れているように見える。羨ましい、素直にそう思った。
私の父はフランス人。だからか、両親は愛の言葉を囁き合っては幸せに包まれている。私はそれが憧れだった。
けれど、私にはその幸せを感じ取れる相手がいない虚しさを、心のどこかで感じていたんだと思う。だからこうして仲の良いカップルを目の前にすると、その空間だけ色づいて見えてしまうんだ。
「_____欲しい、」
私もそれを手に入れたら同じような気持ちになれると、何の躊躇いもなくそう思って手を伸ばそうとした時だ。
「えっ…、」
足がつるっと滑って世界がぐるりと回る。このままいくと頭を打つ。私は慌てもせず、静かにその状況を受け入れた。
これは神様の警告かのかもしれない。他人のものを欲しがろうとした、愚かな私の______。
「っ、と…！ 大丈夫ですか！？」
後ろに倒れかかったところで、誰かに支えられる。お礼を言わなきゃ、そう思って目線をゆっくり上に上げた。
そうして見た世界には、赤、橙、黄、緑、青、藍、紫…と、虹色で彩られていた。助けてくれた彼は心配そうな顔で私を見ている。
そんな彼も虹色で彩られた世界と同じように、キラキラとビー玉みたいに美しく輝く。それを見た私は気付いてしまった。
「…うん、大丈夫。ありがとう、ゾムくん」
「？ いえ…」
また滑らないように慎重に階段を降りて、高鳴る胸を押さえて駆け出した。それも傘をささず、雨に濡れながら。
どうしたら彼を手に入れられる？ 彼は女癖悪いから、他の女と同じように近付いたらダメよね。あぁ、どうしよう。欲を抑えきれない。早く欲しい。欲しい。欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい！
「あははははっ！ あは、あはははは！！ ゾムくん…、私の愛しいゾムくん……！！ はぁ…。だぁいすき」
______待っててね、すぐに私のものにしてあげる。
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