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追憶#05 ページ6

多分、聞くに耐えない歌だったと思う。


だけど、秋葉原の人たちは快くお金をくれた。


ありがたかった。


空き缶の中に入っているお金を数え、今日も眠ろうとすれば肩をそっと叩かれた。


ビクッとして振り向けば見たことのない男の人。


中肉中背の姿に、そこそこ上等そうなスーツ。


固めすぎていない髪型に、さりげなくつけた腕時計。


「今、時間いいかな?」


はあ、と頷けばよかったと微笑んで言われる。


近くの自販機に行き、何が飲みたい?と聞かれたので珈琲で、と答える。


随分大人っぽいね、と笑われる。


差し出された温かい珈琲缶のプルタブを開け、一気に喉に注いだ。


軽くむせれば男に笑われる。


『……俺に、何か用ですか』


ミルクティーを一口飲んだ彼が微笑んだまま、聞いてきた。


「僕の顔、見覚えないかな?」


結構ここ、来てるつもりだったんだけど。


そう言われてハッと思い出す。


やたら万札入れて来たあの人だ。


『……覚えて、ます。』


それは良かった。


そう言い、微笑み直した彼はすっと名刺を差し出して来た。


真っ白い紙片に綺麗な明朝のフォントで打ち込まれた名前に衝撃を受ける。


『……え、っと』


澤藤祐介。


若手ながらバンバン実績を出しているプロデューサー。


「実は、ね。」


ミルクティーをもう一口啜り、彼が真剣な眼差しを向けてくる。


「君の歌、ずっと聞かせてもらっていたんだけど」


僕の元で、デビューする気はない?


少しだけ、少しだけ。


期待して、頷く自分がいた。


この日から、リンとしての俺の人生が幕を開ける。


山田零華として全てを捨てる覚悟で


髪を茶色に染めて紫色の瞳を黒いカラーコンタクトで隠した。

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ぷにぷに左衛門 - 続きが楽しみです! (2020年12月14日 20時) (レス) id: b1fc0b4e72 (このIDを非表示/違反報告)
桔梗(プロフ) - とっても面白いです!もう更新はしないのでしょうか? (2018年12月16日 23時) (レス) id: 8b992b69e6 (このIDを非表示/違反報告)
春日音尾(プロフ) - クロりんごさん» ありがとうございます。分かりにくくてすみません、男主です。レス、って言うんですね。初めて知りました……これからも読んでいただけるとありがたいです。 (2018年11月8日 15時) (レス) id: 9bf1cb7bb4 (このIDを非表示/違反報告)
クロりんご(プロフ) - タグに男主って書いてるんですが、これは女主なのでしょうか?後、レスは普通に投稿時間の後にある(←レス)という所を押せば出来ますよー。 (2018年11月8日 14時) (レス) id: 738c9471c2 (このIDを非表示/違反報告)
春日音尾(プロフ) - 枝豆将軍さん、ありがとうございます。至急直させていただきます。ご指摘、ありがとうございました。頑張らせていただきますのでこれからも読んでいただけると嬉しいです。 (2018年11月8日 9時) (レス) id: 9bf1cb7bb4 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:春日音尾 | 作成日時:2018年11月3日 19時

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