対処法119 ページ28
.
分からなかったから、託す事にした。
あまりにも無謀で、傲慢で、この上なく真摯な言い訳を、彼の判断に委ねることにした。
『‥‥そうした、かったから』
「‥‥ぇ」
『だって、わたし、私』
大好きだから、という続きは舌に乗る前に喉に引っ掛かって消えた。
心臓の上に手を押し付ける。冷たい鼓動が脈打っているのが分かる。スコッチの瞳が鮮やかに光る。高校生ほどの姿の薄い胸の向こうにはなにも見えない。どす黒い赤も、割れたスマホの破片も。
『‥‥ごめんなさい。わたし、言えない。でも‥‥あなたに、助かってもらいたい、です』
「‥‥‥‥‥‥」
カーペットに視線を落としてしばらくの沈黙に耐える。スコッチはしばらくなにも言わなかった。静寂は永遠のように感じられる。
「‥‥‥‥あのさ」
スコッチが真新しい言葉を呟いた時には、私の額はじっとりと汗をかいていた。
掬い上げるような手が額に触れた。あまりにもその感触が冷たくて、質量がなくて、私は弾かれる様に顔をあげる。
あぁ、やっぱり、貴方は死んでいるんだ。
「君が俺に居場所をくれるって言っても、俺は、君に何もあげられないよ。だって、もう死んでるんだ」
『‥‥‥はい』
死んでる、といった所で血の気のない唇がわななくのが見えた。温度の通っていない頬が微かに震える。心臓が軋む音がした。
「俺にはもう、何もない。きっと、いつかきっと君を泣かせてしまうよ。助けてくれた君のことを」
『は、い』
「ここまで言っても、まだ俺の事を置いてくれるっていうの? 俺は幽霊で、得体の知れない亡霊だよ。それでも?」
『はい』
「‥‥‥そこは即答なんだなぁ」
困ったように笑ったスコッチが、喉を締め付けた様な声でそうこぼした。本気で困惑しているらしい彼を前に、私はだんだんと落ち着いてきた。
彼の顔が泣き出しそうな子供みたいだったからだ。
「そんなんじゃつけこまれてしまうよ。俺は幽霊だからさ。それに、もしかしたら、悪霊かも知れない」
『‥‥ますか?』
「え?」
『つけこまれたいって言ったら、怒りますか?』
「‥‥‥恐ろしい人に拾われちゃったな。幽霊を抱き込もうなんて」
『変ですかね』
「変だよ。すっごく変だ。でも‥‥」
スコッチが私の両手をとる。恐る恐るといった手つきで。
「‥‥‥何で死んだかも、言えない。生きてる頃の名前も‥‥君に言えない。いいの?」
.
4902人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「名探偵コナン」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
あ - 面白くて一気見した者です、もう更新されないんですね、この感じだと……。残念です (5時間前) (レス) id: a4dff3124d (このIDを非表示/違反報告)
レモン - めちゃおもろいです!!夢主ちゃんの性格大好きです!更新楽しみにしてますっ! (12月12日 10時) (レス) @page43 id: 18ff82607c (このIDを非表示/違反報告)
はる - 初コメ失礼します!!この小説大大大大大好きです!!これからも頑張ってください!!応援しています!! (11月14日 20時) (レス) @page43 id: 41084e4d77 (このIDを非表示/違反報告)
あまね(プロフ) - イヤァァァァアオワッタ好きですで (9月18日 15時) (レス) @page43 id: 2b125e9969 (このIDを非表示/違反報告)
猫目 - すごく好きです (7月15日 14時) (レス) @page43 id: 5daa8eb0a9 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:りんず | 作成日時:2019年12月28日 20時