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景色がブレる。ひゅんっと心臓が持ち上がる。
浮き上がる感覚ととてつもないスピードで曝け出された箇所を暴風が叩いていき、胸元のくすぐったさが喉元にせり上がって大絶叫となり宙を舞った。
「あ˝あああ˝ああああ!!!」
自分の意志で落ちるのとではとても比較にならない。足場はなく、縋りつけるのは目の前の首と服のみだ。それだって一緒に落ちているのだから実質なんの頼りにもならない。
気を失わなかったのは奇跡だと思う。ゾムさんが耳元で何か言った。落下の恐怖で気が触れそうな中、風の音と自分の絶叫がうるさくてまったく聞こえない。
すぐに掴まれる力が増し、落下する速度が緩やかになると同時に今度は前方に向かって滑るように進み始めた。
「…とん、でる」
「言ったやん。飛ぶでって」
よくよく見るとゾムさんの背中にコウモリに似た黒い翼が生えていることに気づいた。もっと硬そうな質感だが私たちはその翼により羽ばたくというより滑空しているらしい。
「お前めっちゃうるさかったなぁ、ええ叫び声やったで」
「覚えてろよ……」
とてつもない恐怖から脱した。地面には叩きつけられない。それには安心した。が、今度はみるみるうちに滑空のスピードが上がっていってる。
「何でっ、まってまってまってまって!」
「ブーーーーン!」
どんどん迫ってくる城の外壁。決してスピードは落ちることなく勢いを増し、あっという間にひと際大きなガラス窓へ諸共に突っ込んだ。
「グルッペン、入るぞ」
「おっ!」
「ただいま帰った。さぁ俺の帰還だ 喜べ」
「おーよく帰ってきたなひとらん。いやぁ大儀であった」
一括りに魔族と称される我々にも故郷と呼べる場所がある。
何層にも積み重ねた皿のような階層を持つ我が故郷は正しく千差万別、2つとして同じ階層など存在しない。
下へ下へ、下層にいけばいくほど歪で凄惨たる景色と生態を持ち、そこに在るにふさわしくない者はじわじわと精神を侵され、躰が崩れ、やがて消滅していく。
そんな故郷の代表たる俺は、常にみなが幸せに存在できるよう監視・管理するのも仕事なのだがその中のひとつが最近やけに騒がしかった。
これはいけない。懲罰しないと。
俺は涙を飲みながらもひとらんを派遣し、一切合切余すことなくきれいにしてもらっていた。そうなれば種から花が咲くように再び醜悪が生まれ、その階層が再形成されることになるだろう。
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あまぎ(プロフ) - しおりんさん» gルさんの瞳の色が青や赤に変わるのに疑問を持ったセリフです!久しぶりに読み返しましたが描写の印象が薄くて分かりにくいですね…せめて分かりやすいセリフに変更しとこうと思います。また何か疑問があればコメントくださる嬉しいです!ありがとうございましたー! (2020年9月9日 3時) (レス) id: 975a9486c5 (このIDを非表示/違反報告)
しおりん(プロフ) - 11の『あ、れ?瞳の色が、』ってどういう意味ですか? (2020年9月9日 0時) (レス) id: 527cd6ca75 (このIDを非表示/違反報告)
ろん(プロフ) - う、うわあああ、、、、!!! そ、そんなに言ってい頂けるなんて、、、、!!!これからもあまぎさんの書かれるお話を楽しみにしております。 (2019年12月11日 10時) (レス) id: e80195a521 (このIDを非表示/違反報告)
あまぎ(プロフ) - ろんさん» 拝見した瞬間「え、うま…」とリアルで言いました。可愛っ!素朴で芯が通ってる雰囲気に清廉された可愛らしさがあり大変ヨロシオス!!!!!!!いいもの見せて頂きました。夢主ちゃんにはこれからも魔王軍に苦労して頂きます…頑張ろうな。イラストありがとうございました! (2019年12月11日 7時) (レス) id: 975a9486c5 (このIDを非表示/違反報告)
ろん(プロフ) - こんな感じで描いてみました。http://uranai.nosv.org/img/user/data/5/cye/5cee1e2d27d68efd0990e96722f9c62a.png (2019年12月10日 15時) (レス) id: e80195a521 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あまぎ x他1人 | 作成日時:2019年11月3日 20時