１. ページ1
「ああ、今日がデスデイで良かった。デスデイって知ってたから、君と過ごせたんだもん」
一回りも年下の女優が、美しい顔を血のりでぐちゃぐちゃにして横たわっている。ウエディングドレス調のコルセットは焼け焦げて真っ黒だ。もくもくと広がる煙。真っ暗な部屋。
「おい。何言ってんだよ！」
心置きなく伸ばせる髭と髪。明らかに大衆向けじゃない、ブッ飛んだ設定。ユーチューブで全話無料公開しちゃうような、前衛的な取り組み。
ああ、心地良い。ずっとこれをやりたかったんだ、俺は。
「ほら、会話の卓球するんだろ。返事しろよ。俺のボウリングばっかになってんじゃん！」
ボウリング。
ボウリングか。
なつかしい言葉の響きに、ふと脳が揺らぐ。
昔通った、春日部の古い遊技場。
真っ赤な布製のソファーに、誰かが座っている…。
「はいカット！」
長髪をおさげに結んだ気鋭の監督が、俺に向かってにやにやしながら近づいてきた。
「いやあ、いいねえ。いいよ」
「なぁにが」
「剛ちゃん、いいねえ」
監督は俺の肩を揉み、ゆらゆらと体を動かす。
「やっぱ紀子が死んでさ、初めてデスデイを恨むんだよね」
「あー」
にやけが止まらない監督は、うれしそうに言う。
「初めて恨んだ眼、してたねえ」
映画「ＤＥＡＴＨ ＤＡＹＳ」の制作は、俺からこの人に持ちかけた。２０２１年の夏。Ｖ６の解散が発表されて、すぐのことだった。
脇は売れてない俳優、売れてない芸人で固めよう。
世界中から無料で見られる作品にしよう―。
俺が言うと、監督は興奮して笑った。「いいねそれ！」。
ものづくりをする人は、みんな新しいことが好きだった。
「新しい」は心地良い。
草むらをかき分け、誰も到達したことのない土地に一番にたどりつく。その気持ちよさが生きる栄養だ。
俺は、ジャニーズアイドルという古典芸能を２６年も続けた。いや、実質ぎゅっと縮めれば１０年くらいの期間になるのかもしれないけど。
歌。ダンス。コンサート。
もうお腹いっぱいだ。
もういい。
もう、いい。
「剛ちゃんさあ、もっと早くシャバに出てきたら良かったのに」
おさげの監督がまたにやける。
俺は「シャバ、ははは」と笑い、汗と煙でよごれた顔を手のひらで拭った。
『ごぉー』
春日部の古びたボウリング場。
オレンジ色のマイボウルが、蛍光灯に反射して光る。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 15人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
琉夏 - やばいです。ほんとに剛君がこう考えてるんじゃないかって思えてきた (4月18日 23時) (
レス) @page9 id: 1cc564a58b (このIDを非表示/違反報告)
ふき(プロフ) - 私も同じことを考えてました。何故、健ちゃんは出たのか。叩かれるのを承知でいえば、トニが逃がしたのではないか、とさえ思いました。正解はわかりませんがMaoさんのお話を見せていただきたいです。こんなときだからこそ、切に。 (9月16日 23時) (レス) @page7 id: fad25c9c03 (このIDを非表示/違反報告)
Ｍａo - mauさん» ありがとうございます！ (9月16日 22時) (レス) @page7 id: 92189104ea (このIDを非表示/違反報告)
mau(プロフ) - めちゃくちゃ好きです．更新楽しみにしています。 (8月21日 5時) (レス) @page6 id: a03b446b67 (このIDを非表示/違反報告)
Ｍａｏ - ふきさん» ありがとうございます！相変わらずの亀更新ですが、長い目で見てやって下さい。 (2023年1月22日 15時) (レス) id: 684bddb547 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：Ｍａｏ | 作成日時：2022年11月18日 17時
