十六夜 ページ9
でも、よく考えてみると私はどうしてシスターになったの？
私、ここ一年間の記憶しかない。
どこに生まれて誰が親なのかさえ覚えていない。
…どういうこと？
憂鬱に礼拝堂の掃除をしていると慌ただしい足音が聞こえた。
バンッと音がしてドアが開く。
「Aっ!!無事か?!」
「切島さんたち…、私は大丈夫です。何かありましたか？」
何時もとは違う様子に驚きながら言葉を紡ぐ。
首を傾げると八百万さんに腕を掴まれた。
「無事で良かったですわ。Aさん、協会から出て逃げてください。
私がついていきます。」
「え？」
ここから…逃げる？
「飯田呼んで来るか？」
「その時間はないよ。鳴るべく早くここから逃げないと。
取り敢えず森に行こう」
「俺らは村でなんとか食い止められるように…」
「……何があったんですか？」
よく分からない話を遮った。
私のことなのにどうして蚊帳の外？
「話している時間はない」
「話してください。何も説明しないで私が行くと思いますか？
私はシスターです。ここから離れるなんて」
今更シスターなんて肩書きを言う。
本当はただ、ここに会いにくるあの人を待っていたいだけなのに。
彼等は顔を見合わせて溜息を吐いた。
「…手短かに説明する。
お前がモンスターと密会していると村中で噂になってる。魔女はお前だと騒いでいる。
誰か村人が見ていたんだろう」
「…………え？」
「あの調子だと明日には役人に伝わって捕まえにくる。
その前に逃げないと火あぶりだ」
私が、火あぶり？
噂、魔女？
ううん、それよりも
「どうして貴方たちは…」
私を見捨てないの、なんで何もかも知っているような口ぶりなの。
「知ってたよ、全部」
私の心を見透かした様に耳郎さんが言った。
「モンスターは悪いやつじゃないし、…仲間だったんだから」
仲間？
「ほら、分かった？二の前にならないためにも早く貴方は逃げて」
"逃げて"
＿＿___今日見た夜はやっぱり予知夢だったのね。
「逃げないわ」
「は？」
聞き間違いなんかじゃない。
「私は、逃げない」
言葉の意味を早く飲み込んだ切島さんに胸ぐらを掴まれる。
「お前はっ…またっ!!」
庇ってくれたのにありがとう。
でも思ってしまったから。貴方たちが死ぬくらいなら私が死ぬって。
「火あぶりになるとしても、後悔はしたくないの」
迷惑はかけないから、悲しませることくらいは許して。
…ねぇ、みんな泣かないで。
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作者名：鬱ネコ | 作成日時：2017年9月15日 22時
