おいでよ鬱探索者の森 (ページ25)

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視点：犬飼理央

少し経って。
流石にお風呂には入ってもらわなくちゃ、なんて思って、今は彩艶ちゃんが入っている。
夕飯はいただいたのだけど、やっぱり味がしなかった。

「はー…」

いけない、あまり落ち込んでいたらお肌が荒れちゃうわ。
現実逃避的に考えても、どうしても打ち明ける勇気が無い。美味しそう、だなんておかしいじゃない。
悩む頭を冷やすかのように、扇子をはたはたと動かし続けていた。

「お待たせ、理央さんどうぞ」

そんな声と共に彼女が出てくる。

「彩艶ちゃん…」

アタシの服を貸したからね…

デコルテが思いっきり開いていて、誘惑しているのかと勘違いしてしまうほど。いつも束ねている黒髪だってほどかれていて、まだ濡れているようだった。
普段露出の少ない格好をしている彼女のことだから、余計に色っぽく見えてしまう。

自覚はあるのかしら、こんな格好しておいて。

「どうかしたかい？」

翠の瞳を疑念に染めて、此方を見てくる。
自覚は無いのね、わかったわ。

「なんでもないわ、大丈夫よ」

甘い香りもいっそう強くなって、くらくらして、襲ってしまいそうで怖かった。

甘い香りを振り払うように早足で浴室へと逃げた。

「自覚してよ…」

わしゃわしゃと髪の毛を洗いながらひとりごつ。

だって、彼女は自覚していない。
無意識のうちに誘惑してしまっていることも、
自分を危険にさらしていることも。

あんなに怖がるのなら、きちんと対策をしておかなくちゃなのに。
前のお仕事の影響なのかもしれない。『なんでも』するという感覚が抜けきっていない気がする。
自らを実験台のように扱うことも。

どうしたら彼女は自分を大切にしてくれるのだろう。いっそ束縛でもしてしまった方が安全なのではないか。

いけないわ、彩艶ちゃんが暇しちゃう。

ささっと残りを洗い終えて、リビングへ戻る。

「彩艶ちゃん？どうしたのそんな難しい顔して」

心なしか何か考え込んでいるように見えた。

「理央さん」

「？」

「ケーキバースというものは知っているかい？」

「ケーキバース…なにかしら、それ」

知ってはいた。お客様が深夜のノリで話していたから。だからアタシがそうなんじゃないかってことも。