おいでよ鬱探索者の森 (ページ17)

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ケーキバースページ17

※ケーキバースあり

視点：操羽彩艶

最近、理央さんが私のことを甘い匂いがする、だなんて言ってくる。特に香水を付けた覚えは無いし、シャンプーやボディソープ等も無香料を使っているから…原因がわからないんだ。

なんで匂いがわかるほど側に居るのかって？
……あえて言わなかったのさ…察してくれよ。

そう、私は理央さんとお付き合いしている。

恋愛感情なんてあの時に捨てたはずなのに、私は人を愛してはいけないはずなのに。
それでも苦しくて。理央さんの前ではそれを捨てきれなくて。

理央さんはそんなことない、と言ってくれた。
貴女にだって恋愛を楽しむ権利はあるはずよ、と。

次こそは。次こそは何があっても絶対にあんなことはしない。私がどうなろうとね。

＿＿＿＿＿＿＿＿

ドアベルを鳴らして、理央さんの経営するカフェサンライズへ入店する。

お付き合いする前はふらふらと街をさまよっていただけだが、最近では2日に一度は必ず訪れる場所となっていた。なんなら毎日来ている気がするな。

「いらっしゃ～い」

理央さんの声が耳を擽る。
眠れない時も、苦しい時も、理央さんの声を聞けば安心できた。そんな声。

「こんにちは」

自然と口角をあげて、挨拶する。

「彩艶ちゃん、今日はどうするの？」

そそくさと椅子に座るように促されて、素直に腰かける。

「うぅん…居てもいいかい？」

「もちろん！悪いなんて言わないわ」

客としてすぐに帰る時、手伝いとしてずっと居る時。今日はずっと居たかった。なんだか寂しかったから。

ぴとりとくっついてくる理央さん。
初めの頃は少し怖かった。四年前のことが、怖くて怖くて。
でも今はだいぶ慣れた。もう大丈夫。

だけど悲しませたくなくて、落胆させたくなくて、まだ五年前のことは話せていない。
…本当のところは嫌われるのが怖くて。

「大丈夫？」

「うん…大丈夫さ、ありがとう」

「大丈夫ならいいんだけど。…はー…ほんといい匂い」

後ろから手を回し掻き抱かれ、すうっ、と首筋を吸われる。
思い出してしまって。ぞわりと鳥肌が立った。
大丈夫かな、気付かれて無いだろうか。

「お邪魔しま～す」

あ、

「あら、いらっしゃい」

私を包んでいた温もりはすぐに消えて、それから、夜まで何も起こることは無かった。