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第10話 新しい記憶
重岡side
深い霧の中。
季節の変わり目の天気は不安定や。
智洋「あ！あれ、サービスエリアちゃう？」
うっすら見えてきた高速道路の看板に、左折のウィンカーを点ける。
智洋「天気悪いのに、車出させてごめんな。」
重岡「ええって。年に一度の楽しみやん。」
智洋「俺さ、高校卒業したら免許取るから。」
重岡「え？」
智洋「再来年は俺が運転したる！」
重岡「嫌や！恐ろしい！！」
智洋「もう！過保護なお兄ちゃんやなぁ……大毅は。」
年の離れた弟の智洋と泊りがけで行く遊園地は、
俺たちの一年に一度の楽しみやった。
でも、来年は智洋も受験生。
東京の大学に進学して文学を学びたいという弟と、
いつまでこうしていられるやろうか…？
◇
智洋side
ﾋﾟﾋﾟﾋﾟｯ
ﾋﾟﾋﾟﾋﾟｯ
ﾋﾟﾋﾟﾋﾟｯ
あぁ！
待って！
30分が経過したと伝えるタイマー音が部屋中に響く。
重岡「わ！なにこれ！？」
智洋「夏休みの間だけ！」
重岡「それにしてもすごい色やん！！」
高３の夏。
受験前の思い出作りに、俺は生まれて初めてブリーチをかけた。
洗う前でもわかるくらい脱色した金髪。
元々、厳しい校則ちゃうから染めたまんまでもええんやけどな。
いかんせん、黒髪至上主義の大毅がよぉ言わん。
重岡「可愛いともが台無しやんけ！！」
智洋「いつまでもプリティーボーイちゃうの！！」
重岡「それにお前、ピアス何個開けてん！？」
智洋「ん？10個。左右5個ずつ空いてるで。」
俺たちは施設育ちの血の繋がらない兄弟。
大毅は生まれすぐに神戸の大地震で、
俺は小さい頃、転勤族の親と住んどった仙台で津波に遭って、それぞれ両親を失ったんやと、職員さんが言うとった。
俺は、オカンの実家がある関西に移り住んだんやけど、
PTSDによる記憶喪失と人見知り。
更には空想癖の激しさに、親戚たちが匙を投げた。
重岡「せっかく親から授かった身体に傷つけて……」
智洋「大毅って、たまにオカンみたいなこと言うよな？知らんけど。」
そこに現れたのが、同じ震災孤児やった大毅。
大毅は兄として、時には親のように接してくれて、
ハチャメチャやった俺の心を正してくれた。
だから俺は、辛かった経験と支えになった空想を言葉にして、心に傷を負った子供たちの力になりたいと文学部進学を志望しとる。
重岡「…二学期始まる前に黒に戻すんやで。」
智洋「わかっとるって。」
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作者名：るびぃ | 作成日時：2021年11月22日 4時
