MSM Ⅰ (ページ17)

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異能力者は世界の人口のおよそ15％ほどしか存在しない稀有な存在ではあるのだが、その中では向井の異能力はさほど珍しいものではなかった。

　異能力者は国で管理されているため、異能力の情報も勿論データとして登録されている。
　異能力の種類は百を超え、未だに新しい能力が発見されることも多々あるが、その全ては希少度によってランク分けされている。
　『透視』や『念動力』など非異能力者にも知られているような能力から、その能力を持つ者が一人しか知られていないという能力まで、５段階に分けられる。

　向井の異能力は希少度で言えば下から二番目。いわゆる“レア”と評される能力だった。

　三人の視線が集まる中、向井はつり目がちな瞳をキュッと閉じると、右の掌を白紙のスケッチブックに押し当てる。左端から、ゆっくりと右端まで。
　ほんの僅かに発光しているように見える掌が通ると、確かに白紙だったはずのスケッチブックには、ゆっくりと色が浮かび上がってくる。
　滲んだ絵の具のように浮かんでいたそれらはやがてしっかりとした形になり、スケッチブック上にまるで写真のように一つの景色を浮かび上がらせた。

　身体の半分は脚ではないかと思うスタイルの、未だ歳若いであろう青年が、こちらを見下ろすようにして立っている。
　その髪色は、銀に光っているような、白く透き通るような、そんな輝きを持ち。しかしそんな人外染みたオーラに似合わず、申し訳なさそうに眉を寄せる顔は嫌に人間くさい。

「…………こーじ。これ、どこで見たの……？」

　佐久間の呼ぶ向井の名はいつもと変わらず柔らかい響きだったが、その大きな丸い瞳は鋭く真っ直ぐに向けられた。

「お、おん。この子な、昼間に関所すぐの大通りでぶつかった子やねん。……一瞬しか見とらんけど、なんや、怪しげな奴らに追われとった」
「おっけー。……佐久間」
「あいあいっ！」

　スケッチブックから目を逸らさぬまま深澤が佐久間の名を呼ぶとそれだけで意図を理解したのか、短く返事をした佐久間は黒混じりの金髪を靡かせて、来た時と同じように慌ただしく酒場を飛び出していった。