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「ええのに、裕くんも忙しいやろ。」
「とか言いつつ自分手繋いでるやん。」
たしかにあたしの左手は今侯くんの右手に納まっている。
侯くんはどこか人を安心させるような雰囲気を持っているのでそれがあたしをこうさせているのだと思う。
店に着くまでの間侯くんと他愛のない話をする。
あたしは昨日の狸のような顔の男性を思い出した。
「そういえば昨日懐かしい感じがする人に会った。」
「懐かしい感じ？」
「うん、なんか昔いた施設の男の子に似てる人やった。」
「…ってことは子どもってこと？」
「んーん、大人。」
なんやねん、それ と言って侯くんはふっと笑う。
このたまに見せる純粋な笑顔に何人の女の子たちがやられてきたのだろう…
あたしの視線に気づいた侯くんはニヤッと笑って。
「見惚れてると前の電柱ぶつかるで。」
前を向くとこのまま2、3歩歩けば確実ぶつかるだろう距離に電柱があった。
あたしは恥ずかしくなって 別に見惚れてたわけちゃうしー、唇でっかって思ってただけやしー と言う。
「自慢の唇なんやから貶さんといて。」
そう言いながらケラケラ笑う侯くん。
やっぱり侯くんといると心地いいな。
そのままついに店まで着いてしまった。
侯くんのこの手を離せばまたお店で男の欲を満たす道具にならなければいけない。
そう思うと少し名残惜しいけど侯くんにも仕事があるので手をそっと離した。
「大変やろうけど頑張ってな。」
あたしの頭をさっき繋いでた右手でぽんぽんしてくる。
「うん、侯くんが応援してくれるなら頑張る。」
あたしがそう言うと侯くんはあたしの頭から手を離して自分の店へと向かっていった。
侯くんと約束したわけだし、今日も頑張らないと。
自分を奮い立たせて店の中に入っていった。
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作者名：森 らんげる。 | 作成日時：2019年2月9日 17時
