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また今日も出勤の時間が来てしまった。
あたしがやっている職業はあまりにも体力と精神力を削られるのであたしのようにたくさん仕事を入れる女の子はごく僅かだ。
あたしはこの仕事のやり方に慣れてしまったし、何より今みたいなリッチな生活を続けるには人よりも多く働かなければならなかった。
あたしの職場は夜職の聖地でもあろう新宿にある。
新宿は朝から晩まで＿いや、むしろ朝から朝までか＿ホストやらキャバ嬢やらいかがわしいお店の女の子やらが通りを歩いている。
職場への道を歩いているとある人物が目にとまった。
「あ、侯くんっ。」
あたしが名前を割と大きめの声で読んでしまったためにその男性は少し驚いた顔でこちらを振り向いたが、声をかけた主があたしだと分かると笑いさえしないがこちらに手を振る。
「よっ。」
「よっちゃうわ、客がいるかもしれへんところでは源氏名で呼んでくれって何回も言うとるやん。」
今は夕方、新宿に来るホストやキャバ嬢のお客さんが多くなり始める時間帯だ。
「あ、そうか。ごめんね、裕くん。」
この男性は横山侯隆、源氏名を裕と言いホストで働いている。
あたしが施設を追い出され東京のハローワークを歩き歩きし、あまりにも疲れて新宿でうずくまっていたところを拾ってくれたのが侯くんである。
侯くんが今あたしが働いている店を紹介してくれたおかげでこの生活ができているし、侯くんがいない状態でこの世界に入り込んでいたら法外な店や待遇の最悪な店で働いていたかもしれない。
だから侯くんはあたしにとって数少ない大切な人だ。
「A、今日もまた仕事なん？大変とちゃう？」
「うん、まあ大変やけど頑張ってるわ。」
あんたもあたしのこと本名で呼んどるやんというツッコミは置いといて。
侯くんも大阪出身ということもありあたしたちは東京に来て数年経っても抜けきれない関西弁を使って喋る。
もっとも、侯くんは東京の客にはウケがいといった理由で一つの武器として関西弁を使っているらしく、全く関西弁が抜けないらしい。
侯くんの見た目なら関西弁を使わずともお客なんて寄ってくるよ と言うのは恥ずかしくので声に出さないでいる。
「今から店行くんやろ？送る。」
ほい、と出された右手。
手を繋げということなんだなと理解しつつこういうことを女子にさりげなくしてしまうところもホストだなと感じる。
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作者名：森 らんげる。 | 作成日時：2019年2月9日 17時
