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エレベーターから降りたあたし達は隆ちゃんの部屋に向かって歩く。
まっすぐ歩いたところを右に行けばすぐ彼の部屋だった。
ドアをガチャっと開けると ただいまー と部屋の中に向かって言う隆ちゃん。
「…誰かと一緒に住んでるん？」
「あー、今のはお花への挨拶や。」
ほら、入って。 と促されるままに彼の部屋に一歩入ると押し寄せてくる花の匂い。
玄関先にも廊下にも花が置いてあってそれぞれの部屋に通ずるドアには花のリースが飾ってある。
「すごい…」
感動で思わず漏れたあたしのため息に気づいた隆ちゃんは満足そうに 自慢の家やでー と笑う。
靴を脱ぎ部屋の中に進んでリビングに行くとまだダンボールが積み上がった部屋には不釣り合いな大きな花瓶とそこに刺さる花束。
あれはきっと昨日隆ちゃんが持っていたものであろう。
手に持っていた道具をテーブルに置いて隆ちゃんの方を見ると小さな鉢に植えてある花を愛でている。
長い指先で花弁を撫でる仕草とその横顔に思わず目を奪われてしまう。
伏せがちなその目と控えめに笑む彼はどこか妖艶でそれでいて儚くて。
その瞬間パチっと目が合ってしまった。
反射的に逸らしてしまった目線は空を切る。
「せっかく色々道具運んでもらったしお礼に僕特製の紅茶でも飲んでってぇや。」
座って とにこやかに言う彼はキッチンに立って電気ポットで湯を沸かす。
「Aちゃんが気に入ってくれるとええんやけど。」
少し鼻歌を歌う彼は先程とは打って変わって子どものようだ。
大きなソファーに座ったあたしはさっき隆ちゃんに言われた言葉を思い出した。
「ね、隆ちゃん。さっきあたしのこと可愛いって言ってくれたやん、その時どんな花を思い浮かべたん？」
口に出してみるとなんとなく恥ずかしい質問だったことに気づいて少し顔を俯く。
隆ちゃんはなんも気にしてない様子だけれど。
「ネリネ、やね。」
「ネリネ…？」
「おん、ダイヤモンドリリーとも言うねんけど。」
ダイヤモンドリリーでやっと認識できたあたしはその花言葉を思い出す。
「麗しい微笑み…」
「お、花言葉知ってるなんて粋やん〜。」
そう言って彼はあたしの前にいつの間にやら注いだ紅茶を差し出す。
「ローズヒップティー、僕が育てたローズヒップを実ごと入れてあんねん。どこまでも花やろ。」
自虐的に言う彼の作った紅茶から白い湯気が出ている。
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作者名：森 らんげる。 | 作成日時：2019年2月9日 17時
