年下彼氏に染まるまで。 ページ9
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定時後、部署の飲み会に参加した夜。
話の長い上司に捕まりかけ、なんとか区切りを見つけてトイレへ逃げようと歩き出した矢先。
「ねえねえ、ジェシーくんの好きなタイプは？」
ぴた、と足が止まる。
座敷同士を隔てる薄っぺらい障子はただのお飾りで、向こうからはハッキリと会話の内容が聞こえてくる。
「HEHE、そんなの聞いて楽しいですか？」
「気になるんだもん。年上派？ それとも年下？」
「……年下、です」
「ふーん。ショートヘアとロングヘアならどっち？」
「ショート……かな」
ちょっと。私と真逆じゃん？
帰ったらからかってやろ。
隙間から覗けば、私よりひとつ下、つまりジェシーくんにとってはひとつ先輩の隣の課の女の子が座っていた。
彼女は私と同様ジェシーくんからすれば年上で、ヘアスタイルもどちらかといえばロング。
けれど、面と向かって自分とは正反対の人間をタイプだと言われてもとくにへこんだりする様子もみせない。
「じゃあ性格は？ おとなっぽい子か、それとも――」
「DAHA！ もうそのへんで勘弁してくださいよ！」
別に狙ってるわけじゃなく、本当に興味本位らしい。
ジェシーくんもそう理解したようで、すっかりいつもの大きな笑い声が響いてくる。
「教えてよ、減るもんじゃないんだしさ」
「んー……まあ、自分をもってる人、ですかね」
……それは、真逆じゃないと信じたい。
「髪切ろっかな、私」
「へ？」
「ショートとかどう思う？」
「……なんで？」
飲み会からようやく解放され、帰宅してあとは寝るだけという状態に漕ぎ着けたのはもう日も変わる頃だった。
突然の私の提案に、眠たげだったジェシーくんの目がまんまるになってこちらを向く。
「暑いの？ 邪魔？」
「ううん」
「飽きた？」
「違う」
「ええ？ なに？」
首を傾げながらぺたぺた歩いてきて、ソファーに座る私の隣へぽすっと腰かける。
「そりゃ短いのも絶対かわいいけど……」
「けど？」
「こうやってAの髪ドライヤーすんの好きだからなんかさみしい」
そう言って、複雑な表情で私の髪を指にくるくる巻きつけて遊び始めた。
「短くなったらもうドライヤーしてくれないの？」
「違うよ！ するよ！ でもさ、」
「……だって、本当はショートがタイプなんでしょ？」
これなら気付くかな、さすがに。
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作者名：びびたん
| 作成日時：2022年5月30日 20時
