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「……のど渇いたから水飲もーっと」
ジェシーくんが、くるっと私に背を向けた。
ワンコに例えたらまた怒られそうだけど、その姿からはシュンと垂れ下がった耳としっぽが見えるようだ。
私のせい……だよね、これは。
鍛えあがった恋人の身体を直視するのが照れくさいとかいう、中学生もびっくりなこの耐性のなさ。
おまけに態度もそっけなくみえてしまうから最悪だ。
……だから。
今しかない。
顔を見られずに済む、この瞬間しか。
「――うわっ！ A？」
「……」
「なになに、」
「大木じゃん……」
「タイボク……？」
うしろから抱きつくと、思った以上に引き締まった筋肉に跳ね返され、自分でも謎な感想が口を突いて出た。
当の本人は、とまどいながらも「なあに？」なんて優しく訊いてくる。
「いや、本当にがっしりしたなって……」
「だあから俺言ってんじゃん！」
「なんか……しっくりこないね」
「HEHEっ、どゆことよ？」
「ジェシーくんを抱きしめてる気がしないっていうか」
「……待って、なにそれ」
「わ、ちょっと！」
いきなり私の腕を振りほどき、ジェシーくんがパッとこちらに向き直った。
それは計画外！ 顔が見える！
「筋肉ついたから俺みたいじゃないってこと？」
「んー、なんていうか……」
「誰みたいだと思ってぎゅうしてんの、じゃあ」
むう、と眉間にシワを寄せて見つめてくる。
「や、そういう意味で言ったんじゃ――」
「しっくりこないならするまでやってよ」
「はい？」
「これが今の俺なんだってカラダで覚えて！」
「なっ……、」
「俺からも教えてあげるから」
早くね、なんて。
あまりにもおもしろくなさそうに言うもんだから、いくつか引っかかるツッコミどころを拾える空気でもない。
「善処……します」
「じゃあ、ほら」
腕を広げて私を見下ろすジェシーくん。
なんだかその雰囲気が、いつもよりひどくオトナっぽく感じて思わずたじろぐ。
「知ってるよ、恥ずかしいんでしょ」
「……は？」
「でもダメ、ぎゅってして」
俺が気付いてないとでも思った？
Aのことならお見通しっていつも言ってんじゃん。
形のいい唇からそんな言葉がこぼれ落ちる。
「まあ最初はさ、俺が鍛えたりしても気になんないんだって本当にヘコんだの」
「……」
「でも違ったね、見てないんじゃなくてそらしてた」
「……ずっと演技してだましてたってわけ？」
「だーってAからハグされたかったんだもん♥」
……今日のジェシーくんは、ぜんっぜんかわいくない。
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作者名：びびたん
| 作成日時：2022年5月30日 20時
