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出社してからしばらく。
発注の確認や打ち合わせがいったん落ち着いて、午後から来るお客さん用の会議資料を運ぼうとしていたら。
「Aさん、俺も手伝いますよ」
「あ……、ありがたいんだけど……多分大丈夫かな」
「ええ？」
「ひとりでいけそうな量だから」
「ふーん。あれ、このカタログは？」
「まあ、うん、それも一応……」
二往復して準備する予定だった別の資料をめざとく見つけ、「んじゃあ俺こっち〜」と抱え出すジェシーくん。
結局ふたりで分担し、降りてきた無人のエレベーターに乗り込む。
きっとなにか企んでいるに違いない、……と身構えること十数秒。
とくになにもなかった。
逆にこわい。
「ねえ、ジェシーくん」
それは、応接室で資料を並べている最中でも。
「ん？」
「……まだ許してくれてない？」
「AHAHA、なんのことですかAさん？」
耐えきれずこちらから切り出すと、誰もいないのに会社用の距離を謎に保たれてさすがに困惑した。
……やばい。わからない。
ジェシーくんの思考が読めない。
なんで着いてきたんだと、帰りも相変わらず静かなエレベーターで首を傾げていたら。
今度は途中で四、五人の社員が乗りこんできて、奥へ詰めようと体をずらす。
その、タイミングで。
ぐいっと唐突に手首を引っ張られた。
「……っ！」
反射的に隣を見上げれば。
空いたほうの人差し指を口に当てて「しぃ、」と余裕そうに笑うジェシーくんが。
しかも指まで絡めとられて、振りほどきたくても、恋人つなぎになった手はそう簡単には剥がせない。
……ああ。今までおとなしくしてたのは。
そういうことだったんだ。
あえて人がいるところで、だなんて、仕返しのたちが悪すぎる。
――お腹すいた！
――あそこのカフェで食べない？
――お前今日の飲み会行く？
――××さんがいるならアリだな。
大丈夫、みんな自分たちのことに夢中だ。
誰も気にしてない。
見えてない、聞いてない。
「Aさん」
「なっ、……なに」
「午後の会議終わったら、また片付け手伝いにいくんで呼んでくださいね？」
ニヤニヤを隠す気もないジェシーくんと目が合う。
「……どうせならひとりで全部やってくれる？」
「DAHA！�爐�わいい�畍綰擇砲修鵑覆海噺世辰舛磴辰討いい鵑任垢�？」
つないだ手にぎゅっと力を込めながら、してやったりって顔でジェシーくんがそんなことを言うから。
勝ち目なんかどこにもなくて、いよいよ返す言葉も見つからなくなってしまった。
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作者名：びびたん
| 作成日時：2022年5月30日 20時
