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鍛えられた筋肉に気を削がれつつ、玄関先での押し問答がスタート。
「なに買いたかったの？」
「んー、スイーツ」
「今からぁ？ 明日でいいんじゃない？」
「やだ」
「……こんな時間だよ？ 今日はやめたら？」
「今食べたいんだもん」
「えー、俺お風呂の途中なのに」
「だからひとりで行くってば」
「それは無理！」
圧がすごい。
私も頑固だけどジェシーくんもまあまあだな。
もう頼み込みまくって道連れにするしかなさそうだ。
とりあえずダメもとでぱちんと両手を合わせ、おそらく自分史上一番きゅるっとした目で見上げてみる。
「ジェシーくん、一緒についてきて？」
「んん……、」
「お願い！ ね？」
「……だぁ〜もう！ んなかわいい顔しないで！」
「え」
「わぁかったよ、行くよ、一分待ってて！」
……うそ、ちょろくない？
「――お待たせ」
しかも、本当にきっかり一分で来た。
一応お風呂に入ってたとかいう状態から、そんな短時間で外に出られる準備ができるってどういうこと？
濡れてくしゃりと跳ねた前髪を梳かしてあげながら、あらためてイケメンのチートっぷりに圧倒される。
「汗かいた服もう一回着せてごめんね」
「いーよ、ほら歩いて？」
「うん」
「あ、待って。A、手」
三十秒で着くじゃん、と喉まで出かかった言葉をぐっと飲み込む。
無理やり連れ出した手前、ごちゃごちゃ言うのはやめておこう。
素直に指を絡めれば、ジェシーくんは意外と楽しそうにその手をゆらゆら振り始めた。
「……なんかご機嫌だね？」
「HEHEっ、さっきのAのおねだりかわいかった」
「へー……男の人ってほんと上目遣いとか好きだよね」
「え？」
なにげなくそうこぼしたら。
ジェシーくんがぴたっと足を止めた。
引っ張られる形になってうしろを振り返る。
「ジェシーくん？」
「……誰？」
「へ？」
「その男って誰のこと？」
「いや、別に誰とかじゃ……」
「Aの上目遣い好きってやつがいたの？」
「違うって、世間一般論だよ」
「俺以外にも誰かにおねだり、」
「してないから！」
飛躍しすぎ。話聞いてない。
ジェシーくんに言葉の綾とか通じないんだった。
つないだ手をぐいっと引き寄せて歩かせる。
「ねえ、A」
「なに？」
「俺にしかあんな表情見せちゃダメだよ？」
つん、と尖らせた唇がゆっくり近付いてきて。
そっと私のそれに触れた。
じゃあ、そんな風にジェシーくんの心を揺さぶっていいのも私だけにしてね、……なんて。
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作者名：びびたん
| 作成日時：2022年5月30日 20時
