[う.ば.ま.ろ]せめて、ただ愛させてよ。[学パロ/実.況.者]

四十二…。 ページ43

「皆さん、こんにちはー！
Highness Starでーす！」
マイクを通して挨拶をするボーカルの後ろで、
他のバンドメンバーが着々と準備を進めている。
その中には、ALTO君と仲良しの稲野君の姿があった。
彼はエレキギターを片手に、アンプを弄っている。
やがて準備を済ませ、全員が客席を向いた。
「それじゃあ早速、一曲目行きまーす！
今日はクリスマスと言う事で、冬の甘酸っぱい恋の歌！
行くよ！＜純白レジエンド‐冬‐＞！」
稲野君のギターから始まり、すぐにボーカルが乗せられる。
透き通る様な歌声は、
普段とは違って優しい雰囲気を醸し出している。
隣を見ると、ほんのりと赤い顔をしたゆかりさんが
惚けた様に彼らを見ていた。
反射的に、彼女の右手に自分の左手を乗せる。
その時に彼女にこっちを見られたけど、
敢えて無視して彼らの演奏を見つめた。

「ありがとうございました。
いきなり盛り上がり辛い曲持ってきちゃいました。」
どっと、笑い声が沸く。
「次は皆で盛り上がれる曲をやりますよー！
季節を先取りしちゃいます！＜千本桜＞！」
おお、この曲が来たか。
キーボードの前奏が一段落した頃に、歌が乗る。
元々知名度の高い曲だけあって、盛り上がりが半端ない。
俺やゆかりさんも言わずもがな。
こんなの盛り上がらない訳無えじゃん。
曲の途中のギターソロで、
稲野君がボーカルよりも前の位置に躍り出る。
その様子は、とても楽しそうで。
ソロが終わった後に、彼が持っていたピックを客席に投げ込んだ。
ピックが近くに降ってきた客達は我先にと奪い合っている。
その隙に稲野君は元の位置に戻り、
予備で持ってきていたであろうピックを
ポケットから取り出し、曲の続きを弾き始めた。
曲が終わり、ボーカルが稲野君に話し掛ける。
「さっき何やったの。」
稲「え、俺のピックぶん投げました。」
「やりたかったんだ？」
稲「はい、どうしても。」
「彼のピック取れた人ー！」
二人組の女子が、煽りに反応した。
「嬉しそうだなー。盛り上がったんで、まあ良いとしましょう！」
わああっと、更に歓声が会場を包んだ。
『良いなあ。あたしも欲しかった！』
う「今日の記念にですか？」
『おう！』
ちゃんと、楽しんでくれてるなあ。
俺は重ねていただけの彼女の手に、少しだけ力を込めた。
『な、何だよ。』
う「誘って良かったなあって、思っただけです。」
『じゃあ何で手なんか繋ぐんだよ？』
う「…何となく、です。」
俺がそう答えると、彼女は俺から視線を外した。

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