[う.ば.ま.ろ]せめて、ただ愛させてよ。[学パロ/実.況.者]

三十四…。 ページ35

ゆかりさんは身を屈め、俺と身長を合わせた。
彼女の顔が、俺の眼の中に広がる。
何か、初めて彼女とちゃんと話した時を思い出した。
『…何で目、瞑るんだよ。』
う「知りませんよ！何か、恥ずかしいんです！」
何で慌ててんだ、俺。
『ここまで徹底するんなら、あたしも
奥の手出さなきゃなー！』
う「何する気ですか！」
手荒な事は止めて下さいよ。
ただでさえ今、ボロボロなんだから。
『必殺！こちょこちょくすぐり！』
う「えっ！？あ、あははははははは！」
嫌な予感は的中した。
でもまさか、こう来るとは思わなかった。
彼女は俺の首筋に自分の両指を充てがい、
ひたすらくすぐり始めた。
暫くそれが続き、数分後にやっと手を離される。
う「っはあ、はあっ…。」
『やっと見てくれたな。』
う「え…、あ。」
『やっぱ、うばまろ君は笑った顔が一番似合うな！』
う「は、恥ずかしい事言わないで下さいよ！
こんな所で…！」
『え、思った事を正直に言っただけなんだけどな。』
あんまり、惑わせないで下さいよ。
確信、しちゃうじゃないですか。

時刻は、夕方の五時四十分頃。
冬の夕方は、驚く程暗くなるのが早い。
『そろそろ帰ろうぜ。送ってくよ。』
う「いや、ゆかりさんの家って
確か反対方向でしたよね？」
『いーんだよ。大事な後輩君の面倒ぐらい、
最後まで見させてくれよ。
ここまで一緒だったんだからよ。』
う「…じゃあ、俺が送ります。」
このままじゃ俺、男らしく無えし。
『…頼もしー。じゃあお願いするぜ！』
う「折れるの早くなりましたね。」
『うっせー。』
ゆかりさんは赤くなりながら、そっぽを向いた。
う「あれ、何で俺の顔見ないんですか？」
『…ばーか。』
う「何で俺、罵倒されたんですか！？」
『自分で考えろ、ばーかばーか。』
彼女の小さな罵倒が、俺の心臓を揺らす。
…ドＭじゃねえぞ？
コートにすっぽりと収まっている俺の掌が、
彼女のもとに引き寄せられていく。
気が付けば俺は、ゆかりさんと手を絡め合わせていた。
う「………。」
『何か、喋れよ…。』
う「こういう事、ですか？」
『…ばか。』
あ、また罵倒した。
でも、これで確信してしまった。
俺、ゆかりさんの事が好きなんだ。

家路に着き、自分の部屋に戻る。
そこで鞄を置き、制服のままベッドにダイブした。
そのまま、物思いにふける。
確信は持てたけど、彼女は既に好きな人がいる。
出来るなら、俺はそれを応援したい。
それならば…。せめて、貴女の事を
好きなままでいさせて下さい。

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