番外編「助手：静形薙刀」 ページ8
とん！
私は靴裏で音を出して一歩前に踏み出した。
進行方向には静。身体を強ばらせ、一歩後ろに下がる。ここまでは想定内である。問題はここからだ。
「これ、動くな！主命だ」
「主命……!?あ、主ぃ、こんなところで使わんほうが」
「主命。動かないで」
「あっ……う、ああ」
主命と気遣いが見事に衝突した静は、びくびくしながらも立ち止まった。うーん、ちょっと申し訳なくなってきたが……いや、まぁ、いいか。
立ち止まった静に向かって、一歩一歩、決して怖がらせないように、私は近づいていく。
「う……！？あ、主ぃ……これは」
「ん。柔らかいな」
むむ。いけない。思わず本音が漏れた。
静を抱き締めた私の顔は、ちょうどぴったり、柔らかい静の胸に埋まった。されるがままの静はまったく動こうともせず、私に抱きしめられたままでいる。
どんな表情をしているのかは分からないが……声色からすると驚いてはいるんだろう。
「静。ほら、今、私はお前に触れているだろう。抱きしめてもいる。静、私は傷ついているように見えるかい」
「そうは……見えん」
「だろう？なぜなら、今のお前が人の身を得ているからだよ」
「どういう意味だ、主ぃ……俺は武器だ。人を傷つけるもの、なのだ」
沈んだ声に少し淋しさを覚えた。
静には主がいない。唯一出会った人間が、この私だ。だから武器としての意識も、巴形と同じでどこよりも強いのだろう。
「それでも、今のお前は、そう簡単に人を傷つけることはないよ。静、私達はきっと、こうして暖かさを知るために、この姿になったんだろう」
「暖かさ？……ああ、たしかにこれは、暖かさだ」
「うむ。暖かさを知るための身体が、自分の意思に沿わずに人を傷つけるなんて、そんなナンセンスなことはあっていいはずがないんだよ。人はきっとそんな風に出来てる。静もだ」
「俺も……か？」
静の暖かい胸板から離れ、私は彼の顔を見た。優しい顔をしていた。
静はその表情のまま柔らかく口角を上げて、はにかんだように微笑んでから、私の背中に手を回した。
ぎゅう。
季節などないこの世界に、今日は春の匂いが香った。
それは人の身を得た刀から舞った花弁のせいか、それとも互いに共有した春の陽のような暖かさのせいか。
とにかく、静と歩むこれからの頼まれ屋は、暖かいものになりそうだ。
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小生(プロフ) - 久しぶりにこのサイトを覗かせてもらい、こちらの作品の新しい話を読むことができてとても嬉しかったです！これからも応援しております！ (2021年10月7日 21時) (
レス) @page25 id: 622fb3de14 (このIDを非表示/違反報告)
こばひな(プロフ) - アヅマさん» 頑張ってください！！応援してます！！！ (2019年5月9日 22時) (レス) id: 36295a5c6d (このIDを非表示/違反報告)
アヅマ(プロフ) - こばひなさん» コメントありがとうございます。当方忙しく更新が滞っていて申し訳ないです…。とにかく完結までは走り続けるので、店主の活躍を温かく見守って頂けると嬉しいです！ (2019年5月9日 1時) (レス) id: 7a303d5d51 (このIDを非表示/違反報告)
こばひな(プロフ) - この続きが気になります 続きをつくってもらえたらうれしいです (2019年5月6日 15時) (レス) id: 36295a5c6d (このIDを非表示/違反報告)
アヅマ(プロフ) - 雪音さん» コメントありがとうございます。面白いと言って頂けたようでうれしいです！時にリクエストとはどのようなリクエストでしょうか…？まずそれをお聞きしておきたいと思います。お願い致します。 (2019年4月6日 0時) (レス) id: 7a303d5d51 (このIDを非表示/違反報告)
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