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昨日のことは、いまだに夢なんじゃないかって思ってる。けれど、私の右肩には昨日彼からもらったトートバッグがかかっている。
『夢じゃないんだ…』
「何が?」
突然声をかけられた。驚いて後ろを見ると、同じ学部に通うジョンインがいた。大学に入って最初に隣の席で講義を受けた彼は、今では私の良い友人だ。彼のことは、あだ名のイエナで呼んでいる。
「ん?そんなバッグ持ってた?Aにしてはセンス良いじゃん。」
『お、喧嘩売ってる?良いよ買うよ』
「朝から物騒だよ。というか普通に気になる。どこで買った?」
『あーこれ昨日の夜ね、……いや、やっぱいいや』
「えっ、言うなら言ってよ気になるんだけど」
『秘密でーす』
「えー…」
イエニは私が教えないからか、まぁいいけど、と肩をすくめてスタスタ歩いていってしまった。いつも講義が被ったときはほとんど隣で受けるため、置いていかれないように小走りで彼の背中を追いかけた。
午前の講義が終わり、二人で学食を食べに食堂へ向かう。
私はカルボナーラで、イエニはハンバーグ。ここの学食は美味しいことで有名だ。
『さっきやった講義の先生、10分間で68回もくしゃみしてた。花粉症?』
「やってることが高校生」
花粉症辛いだろうなぁ。後でティッシュ差し入れしよ。
そう思いながらカルボナーラをくるくるとフォークに巻きつける。講義中、なんとなくノートをとっている時、ふとした時。頭の中にヒョンジンさんが思い浮かんでいた。
「A、講義中もたまにぼーっとしてなかった?急にAが喋んなくなると怖いよ。頭打った?」
『素直に心配できないのか君は』
「Aが大人しいときって大体異常事態じゃん」
異常事態とは失礼な。でも、この距離感で居れるからイエニと話すのは好きなのだ。大体こうやってくだらない会話ばかりしている。
「で、今日の朝言ってたそのバッグ、結局どこで手に入れたの?昨日の夜…とか言ってたよね」
『忘れてくれたと思ったのに』
「教えてくれないと気になって夜も寝れない」
『じゃあ一生起きてて』
なんとなく、ヒョンジンさんの事は秘密にしておきたかった。けど、上手くごまかすことも出来ず、ずっと聞かれ続けてたらこっちも疲れてきた。仕方がないので、彼だけには話すことにした。
『昨日の夜、いつものペンのインクきれたからコンビニに行こうとした。そしたら猫に導かれて…王子様に会った』
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作者名:MICKEY | 作成日時:2024年2月23日 16時