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「…えっと、何だっけ？」
額に汗を軽く流して、笑って彼は首を傾げた。会場には笑いが走る。
……知ってたよ大丈夫。
お嫁さんがお兄ちゃんを軽くこづいだ。
2人とも幸せそうで、お嫁さんに向けるお兄ちゃんの瞳は、私へのものとは違う。
大丈夫。泣いてないよ。
分かってたから。知ってたから。
涙は昨日の夜枯らしてきたでしょう？
悲しんでる顔なんてこの場には似合わない。
笑え。
最後に愛する人のため、他の女との結婚を祝福し、自分の胸に刃を刺した人魚のように。
愛するのなら彼の幸せを祈らないと。
「2ヶ月半前、結婚のことをお兄ちゃんから聞きました。
その時、私が言ったこと。」
お兄ちゃんはわかったようだった。
…でも、本当に言いたいことは違うの。
何度も消しゴムで消した「好き」が、スピーチの原稿に染み込んでいた。
でもその上に書いた仮初めの約束。
「結婚する彼女を、幸せにしてあげて。
…それで、お兄ちゃんも幸せになってね。」
お嫁さんのメイクで飾った美しい目に水がうっすらと溜まるのが見えた。
「私は、そう言いました。
お兄ちゃんも、笑って当たり前だろ、って言ってくれた。
この約束だけは絶対守ってね。」
お兄ちゃんは、幸せになって。
「あぁ。守る！」
お兄ちゃんも涙が瞳に溜まる。
この約束だけでいいの。
私との約束なんて忘れてしまって構わない。
人魚が王子を助けたことなんて忘れてしまって構わない。
だから、だからお願い。
「どんなときでも、2人で笑っていけるように。
幸せでいられるように。
……祈っています。」
神様。
私はもう良いですから、だから、どうか。
彼が知らぬ間に約束を破ってしまったことに対して、罰を与えないで。
「……これで、私のスピーチを終わらせて頂きます。」
軽いお辞儀をして、その場から離れた。
拍手の音は、私が妹として終われたことを証明してくれるようで、
私は最後に、泣いてしまった。
お兄ちゃんの幸せを、
私の愛する彼の幸せを、
誰も汚さないで。
私が泡になっても、あなたはどうか幸せに。
.
忘らるる 身をば思はず 誓ひてし
人の命の 惜しくもあるかな
(忘れられてしまう私のことはどうだっていい。
ただ、誓いを破ってしまったあなたが神の罰として死んでしまわないかと、それだけが心配なのです。)
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鬱ネコ(プロフ) - 璃月さん» コメントありがとうございます！リクエスト、続編の方で死柄木さんで書かせていただきました。ご不満がありましたら書き直しますのでお申し付け下さい。ありがとうございました！ (2018年12月14日 22時) (
レス) id: 61ffaa13af (このIDを非表示/違反報告)
鬱ネコ(プロフ) - みすみさん» 競技かるた部なんですね！かっこいいです。ありがとうございます~！リク、遅くなりましたが書かせて頂きました。続編の方なので良ければ観覧お願いします。コメントありがとうございました (2018年11月26日 23時) (レス) id: 61ffaa13af (このIDを非表示/違反報告)
鬱ネコ(プロフ) - Runaさん» ありがとうございます！切ない話を書きたい、って常日頃思っているので、そう言って貰えると嬉しいです。好きだなんて光栄です。続編でもよろしくお願いします！ (2018年11月9日 23時) (レス) id: 61ffaa13af (このIDを非表示/違反報告)
Runa - トガちゃんの話好きだななぁ･･･ちょっと残酷だけど、何かトガちゃんの報われない想いとか、切なくて結構好き。続編でも頑張って下さい。 (2018年11月9日 20時) (レス) id: 3e6d8cfb03 (このIDを非表示/違反報告)
鬱ネコ(プロフ) - ミリイ(灰崎信者)さん» ステイン様続編の方で書かせていただきました！遅くなり申し訳ありません。ご不満がありましたら、書き直しを仰ってください！ (2018年11月8日 19時) (レス) id: 61ffaa13af (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：鬱ネコ | 作成日時：2018年5月26日 14時
