episode19 ページ20
「上鳴くんと話がしたい」
「え……俺?」
「2人きりがいいんだけど……」
少しずつ気持ちに余裕が出てきたところで、私は自分が今からすべきことを整理した。
そして、上鳴くんと2人で話すことを選んだ。
三奈と切島の方を見る。
「ほら、切島。行くよ」
切島は何か言いたげだったが、三奈は切島を引っ張って2人で出ていった。
私と上鳴くん、2人だけの空間。
個性がないことにまだ実感が湧かなくて、こうして好きな人が、上鳴くんが隣に居ることにまだ慣れない。
私は話をまとめるために辛い記憶を思い返した。
私が彼と話したいと言ったのに、何も言えないまましばらくの間沈黙が続く。
その間も、彼は難しい顔をして黙っていた。
そして、悪夢とまで思えた記憶を夏休み前まで辿り、深く息を吸って、吐いた。
私が口を開くのに彼も気づいたようだった。
「夏休みに入ってからずっと1人で考えてた。ノート、切島から受けとって、私、どうしたらいいのかわからなかった」
自分がしてきたこと、上鳴くんに会わないことは、上鳴くんのことを想ってとった行動。
本当は好きな気持ちを諦めなくちゃいけなくて、でも私のエゴで文通なんてあやふやな状態にしてしまった。
「なんで急にあんなこと言ったのか知りたい。けどその前に、私から話さなきゃいけないことがある」
私はずっと逃げてきた。
相手を想ってとか言いながら、自分の個性と向き合って来れなかった。
上鳴くんは相変わらず黙ったままだった。
「私、上鳴くんと会うと、個性が暴走しちゃうの。だからできるだけ近づかないようにしてた」
彼と出会って知った、恋の楽しさや辛さを思い返す。
こうして思い出してみれば、楽しかったことの方が多い気がした。
その思い出が私の背中を押してくれる。
「個性が暴走する理由は2つあって、1つ目は混乱とか恐怖から。2つ目は……」
「俺のことが、好きだから」
「え……?」
言おうと思っていたことを先に言われ、戸惑った。
いつの間にか私の話すターンは終わっていたようで、今度は上鳴くんの話を聞く番だった。
逸る鼓動が相手にバレないように、できるだけ平然を装って聞こうとする。
「切島に聞いた、全部。だから文通することがAを苦しめているようで辛くなった」
上鳴くんが文通をやめた理由が、痛い程わかった。
私が同じ立場でも彼と同じ選択をしていたに違いない。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 128人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ヒロアカ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：さくら | 作成日時：2020年5月26日 9時
