7話 兄ちゃんに撫でてもらう ページ8
7時を半刻過ぎた頃、店長にお疲れ様と背中を叩かれた。サイゼリアンのバイトを終えて裏口から出る。冬の夜はもうすっかり凍えるような寒さになっていて、気を抜いて漏らした溜息が煙のように白くなった。
夜闇に溶け込んでしまう程に暗いタール色のマフラーを、俺は何時ものように余裕を残して巻いた。誰も引っ張りに来る奴はいないってのに。甘ったれた考えに内心、自分は怒っていた。心の片隅に硝子と会えるんじゃないかと、そう考えている事がモロに出ている行動だった。
また溜息をつく。今回は鼻下まで隠れるようにマフラーに顔を埋めたので白い息は上がってこなかった。
そもそも俺が一方的に硝子に恋心を抱いているだけなのではないか。俺以外に硝子が好きだという男生徒がいない訳じゃないし、多感な時期であるので付き合いたいとそういう感情を抱く者もいるだろうし。俺が気付かないだけで硝子にはそういう存在がいるのかもしれない。
自転車の籠に荷物を積み、駐車場から出た。バイトが終わったすぐに硝子の顔が思い浮かんでしまうのは、きっとそういうことなのだろう。どうなるかも分からないのに虚しい事だ、と一気に情けない感情が芽生えた。
音もなく目の表面に水の膜が張り、瞬きが出来ない状態となってしまう。小学生の時から蓄えてきた恋心は海よりも深い訳で。
「おお、あるとじゃん。バイト終わったところ?」
「兄ちゃん……」
「なんだよ、泣きそうな顔して」
横断歩道で信号待ちをしていると一宮家の長男・すばる兄ちゃんがやって来た。兄ちゃんは俺の感情に即座に気付いたのか小首をかしげていた。
何時もなら気持ち悪い俺が抱きしめに行っているが、今までにない情緒不安定に苛まれて身体が動かなくなっていた。兄ちゃんはそれと感じ取ったのが歩いてきてくれ、俺の肩を慰撫した。優しくされたら泣いちゃうだろーがこんにゃろーめ。
*
俺がこのまま家に帰ったら母さんも父さんも心配するだろう、と兄ちゃんの計らいもあり、近くの公園で暫く休むことにした。兄ちゃんが自動販売機で買ってきたコーンポタージュは手袋を通しても温もりが伝わり、持っているだけで少しずつ心が安らいだ。
兄ちゃんはココア片手に戻ってくると、「母さんに遅くなるって伝えといたから」と言った。(どうでも良いが、兄ちゃんは1週間前に携帯電話をiPhoneに替えた。前のandroid携帯はデザインが良いが、写真機能が充実していなかったらしい。)
2人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
PP - そうだったんですか。お話の展開や一人一人の色んな個性や想いが丁寧に描かれていて、情景が目に浮かぶようです。何故か私の一番思いだすシーンがお母さんが盛塩をフライパンで煎るシーンです(笑)また素敵な作品楽しみにしてます。 (2016年5月19日 17時) (レス) id: e76cee042d (このIDを非表示/違反報告)
レイチェル・ハジェンズ(プロフ) - PPさん» 実はこの作品、レイチェルの家族と、片想いしてる人の家族構成をそのまま持ってきてるんですよね。内容もそれに近付けて、結構重たくしてみました。読んでくださり、ありがとうございます(*^^*) (2016年5月19日 17時) (レス) id: 3a04122313 (このIDを非表示/違反報告)
PP - 追伸☆ごめんなさい!「こんにちわ」のつもりが「こんにちわんだぞ(何の意味だよ)」と…スミマセン! (2016年5月19日 9時) (携帯から) (レス) id: 0625209047 (このIDを非表示/違反報告)
PP - こんにちわんだぞ☆毎日読み進めてましたが続きが楽しみな作品でした。3姉妹が10代にして重過ぎる事情を抱えてても明るく生きる姿に勇気をもらいました! (2016年5月19日 9時) (携帯から) (レス) id: 0625209047 (このIDを非表示/違反報告)
響稀(プロフ) - リクエストの硝子ちゃん完成しました!!サイトにてお待ちしてます! (2016年4月13日 23時) (携帯から) (レス) id: 0a116ef314 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:レイチェル・ハジェンズ | 作者ホームページ:https://twitter.com/seshiru777777
作成日時:2015年12月14日 20時